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「ない。ありえない。ディ・モールト(本当に)ありえない。」 高価そうなアンティークが飾られた部屋。 メローネはルイズとこの部屋で二人っきりであった。 しかし!事もあろうにメローネは!こんなディ・モールト(とっても)いい状況でッ! ・・・現実逃避の真っ最中であった。 普段冷静で理屈で動いている者ほど、自分の理解の範疇を超えた物事に遭遇すると それを認めることはできないものである。 「ないないないないナイナイナイナイナイナイ こんなバカなことがあってたま・・・・」 そのとき彼の目に飛び込んできたのは・・・二つの月であった。 ゼロの変態第二話 使い魔暗殺者(ヒットマン)メローネ! 部屋に帰ったメローネがルイズから聞かされたのは、だいたい次のようなことであった。 ・ここはハルケギニア大陸トリステイン王国のトリステイン魔法学院。 ・そこの2年生恒例の『サモン・サーヴァント』の儀式の時メローネは召喚された。 ・使い魔を送り返す魔法なんて無い。少なくにもルイズは知らない。 ・ちなみにここには身分制度がある。 ・貴族(メイジ)は魔法が使える。平民は魔法は使えない。 ・だから貴族が上ッ!平民が下だァァ!! その他諸々のことである。 「・・・信じるしかないようだな。ここが『異世界』だということを・・・。」 信じたくないという顔をしながらメローネはつぶやいた。 「それよりあんたの言ってることの方が信じられないわよ。 だいたい証拠でもあんの?」 「・・・これじゃ証拠にならんか?」 メローネは自分のパソコンを見せた。スタンドパワーで動いているのでここでも使える。 その事だけが彼にとって救いだった。 「たしかにこんなものここにはないけど・・・。」 (だからって怪し過ぎよッ!ただのド田舎モンにきまってるわ!) ルイズがものすごい怪しんでいる一方、メローネの頭は冷静さを取り戻していた。 元々頭脳派のメローネである。冷静さを失ったらただの変態である。 (帰れないとなると、ここで生活するしかないな・・・ 言語すらわからんこの世界では俺ひとりでは・・・きっと暮らせない。 やはり使い魔になるしかないのか・・・) (それに・・・俺はあのとき新入りが作った蛇に噛まれて死んだはずだ・・・ となるとこの女・・・命の恩人という訳か・・・) そしてメローネが出した結論は・・・ 「・・・なるよ。」 「へ?」 「なると言ったんだ。お前の使い魔に。」 「えっ?あっ、そ、そう。や、やっと自分の立場が理解できたのね。」 さすがのルイズも急に話しかけられのでびっくりしている。 「で、使い魔って何をすればいいんだ?」 「ま、あんたにできそうなのは掃除洗濯その他雑用ってとこかしら。 どうせ戦いとかは無理でしょ?」 「ま、まぁ無理だな・・・。」 スタンドのことは言わないでおこう。厄介ごとになるかもしれない。 「じゃ、明日から仕事してもらうから。」 「ヲイ、ちょっと待て。・・・何してる?」 目の前で女の子が服を脱ぎ始めるのである。誰だってそー言う。彼だってそー言った。 「何って・・・寝るから着替えるのよ。」 「・・・・・・わかった。・・・俺はどこで寝ればいい?」 ルイズは黙って指さした。・・・床を。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・(毛布があるだけマシか・・・?)」 「あ、あと明日になったらこれ洗濯しといて。」 メローネに下着を投げつけるとルイズはベッドに潜り込み、指を鳴らしてランプを消した。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 メローネは理性を保つので精一杯だった。いろんな理由で。 「やめといた方がよかったか?」 メローネはこれから訪れるであろう受難の日々を想像し、ジャッポーネのゲームなら いろいろオイシイ展開になってるのにと思い、おとなしく寝た。
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トリスタニアの街から離れた、ある森の一角に王立魔法研究所の第二研究塔はあった。 敷地は高い塀で囲まれていて、外からはおり中を見ることはできないようになっており、草原になっている広場の広さは、魔法球技『クィディッチ』ができるほどある。 その敷地内にて、ルイズの姉であるエレオノールはとある実験を行っていた。 研究員らしい白衣を着た、ややぽっちゃりとした体形の女性が、同じ格好のエレオノールに間延びした声を投げかける。 「エレオノール様ぁ。準備できましたよぉ~」 「いいわ、でも『そろそろ』ね。作業員に安全確保を徹底なさい」 エレオノールは考え事をしながら、彼女の近くにすえつけられている大砲を見ていた。 「はぁ~い。ではぁ、ごじゅうさんぱつめ、いきますぅ~」 あの助手有能なんだけども、やや間が抜けてるのよね。 あのピンクの髪が、どことなくカトレアを連想させるし。 そう思っているエレオノールの体を、大砲の轟音が包み込んだ。 かなりの時間、エレオノールの視界が黒煙によって完全にさえぎられる。 それにもめげずに、大砲の方向を注視し続けた彼女は、発射煙の合間に発射実験の結果を見ることができた。 大砲は砲身がささらのように開いている。 砲身の命数が尽きたのだ。 「だめね、これじゃ。とても実用的とはいえないわ」 ため息をつくエレオノールに、助手がのんびりとした声をかける。 「ですからぁ~。箍をはめて砲身を補強しましょうよぉ~」 「だめよ!!! それでは作業工程が三割増しになるじゃない。『錬金』工法のメリットがなくなるわ!」 エレオノールはため息をついた。 まったく、この子は。今回の研究の本質をわかっているのかしら? エレオノールはそう思いながらも、助手を変えようという発想にはならなかった。 なぜなら、エレオノールの癇癪を器用に受け流すことができるのは、王立アカデミーでは彼女しかいないからだ。 エレオノールたちは、現在王立造船所に出向し、新しい砲の製造法を研究していた。 それは木材を大砲の形にくりぬき、それに高度な『錬金』の魔法をかけることで、安価にかつ大量に大砲を量産する方法である。 いまだ試験段階だが、もしこの生産方式が実用化されれば、従来のいわゆる『溶接工法』の半分程度の手間で生産することが可能とエレオノールは思っている。 通常『錬金』の魔法は、エレオノール達王立アカデミーの研究員の力を借りずとも簡単に唱えることが可能だ。 だが、大砲に使われるような金属には、細かい成分調整が必要である。 しかも、トリステインは、この新式の大砲に新しい合金を材料にしようと考えていた。 そのような合金を練成するならば、アカデミーが研究中の、新式の『錬金』魔法が必要なのだ。 エレオノールたちは、そのために大砲の砲身に『錬金』魔法をかけていた。 「やっぱり粘度が足りないわね……もう少し亜鉛の比率を上げてみるか……」 そうつぶやき、考え込むそぶりを見せるエレオノールの姿には鬼気迫るものがあった。 今のエレオノールに声をかけようと思うものは、トリステインの中では数少ない。 その数少ない人間の中に、ルイズはいた。 「シエスタに会いたい研究員って、姉さまのことだったの?」 ルイズが、ブチャラティと、シエスタとともに衛兵に案内されながら歩いてきたのだ。 「あら、あなたがミス・シエスタ?」助手を帰らせたエレオノールが言った。 「そんな、高名な貴族様にミスだなんて。私のことは、ただシエスタと呼んでください」 「あのねえ、あなたはシュバリエになったんだから、一応はあなたも貴族なのよ。しゃきっとしなさい!」 「は、はい!」シエスタは体をびくりと震わせる。 「ルイズ、あんたの隣にいる男は誰?」 「オレはルイズに召喚された、彼女の使い魔だ」ブチャラティがいった。 「ふ~ん」 エレオノールはブチャラティを頭からつめの先までジロジロトねめつけた。 「まさか、ちびルイズの恋人ってわけじゃないでしょうね」 「違うわ!」ルイズが言った。 「まあ、いいわ。ところでルイズ、あなたなんでここに来たの?『鉄竜』の使い手はミス・シエスタのはずよ」 そういわれたルイズは体を硬直させる。出す声も心なしかこわばっている。 「だって、姉さま。シエスタは私の知り合いですし……」 ルイズは次の言葉を言いかけて、アンリエッタとの約束を思い出した。 だが、その思考を奪うかのように、エレオノールが詰問する。 「まさか……鉄竜と同時に発見された『虚無の使い手』って……アンタ?」 「……はい」 「嘘でしょ?」今度はエレオノールが絶句する番であった。 そのスキに乗じて、ルイズが話す。 「だって、アカデミーの人間が話を聞きたいなんて。もしシエスタが解剖されるようなことがあれば、知り合いの私が守ってやらないと……」 「ひえぇぇ」シエスタがルイズの服のすそをつまんでうずくまった。腰が抜けたのだ。 その様子を見て、エレオノールが顔をしかめた。 「あのね……アカデミーはそんなことしないわよ。少なくとも今は」 「だって、うわさがあるもの。実験小隊なんてもの作って、町をそっくり焼いたとか」 「まあ、リッシュモン殿が長であった先王の時代はいろいろやってたみたいだけどね。今はこじんまりとしたものよ。まあ、せいぜい『幻の第四課が始祖ブリミルの遺体を解読している』といううわさがある程度ね」 ルイズとシエスタは顔を見あわせた。安堵の表情だ。 「たとえば私の第二課はね、ゲルマニアから伝わった『科学的研究法』を用いて、基礎の魔法の法則を再構築しているのよ」 ルイズとシエスタは再度顔を見あわせた。困惑している。 その様子をみたエレオノールは、ルイズに向かって言った。 「ルイズ、今学院で受けている魔法の授業は、古文書や始祖ブリミルの魔法書を解読しているような形態でしょ?」 「はい、姉さま」 「それは、昔の人が経験したことをそっくり真似ているだけなの。それを、私たちは経験や観察、実験を通して一般的な経験則を打ちたてて、新たな『理論』として体系付けているのよ」 「そうなんですか……」 ルイズはエレオノールの言っていることがいまいちわからない。 「そうよ。ゲルマニアの研究書には、『エネルギー保存の法則』なんて怪しげなモノもあるけど。研究の手法そのものは正しいわ。研究の蓄積を進めていけば、将来新しい魔法を開拓することも夢ではないわね」 エレオノールの話は続く。 「ルイズ。うちの領地の農場では、春の麦植えの季節に母様が地鎮の儀式を行うでしょう」 「はい」 「ヴァリエール家は領地が広いし、母様は風系統だから、うちでやる儀式はほんの形式的なものだけれど、これが領地が小さめの、たとえばグラモン家なんかの土系統の貴族だと、家伝の錬金魔法をかけて、農地の活性化を図るのよ」 エレオノールの目がどんどん危なくなっていく。もはや彼女にはルイズたちは眼中にない。 「そのような口伝や家伝に頼っていたため、トリステインの応用的な魔法技術は家系ごとにばらばら。ひどいものよ。それを収集、実験して統一性のある高度な魔法体系を構築することがアカデミーにとって、いいえ国家にとって急務なのよ!」 「すごいですね、ルイズさんのお姉さんって」 シエスタは驚嘆の声を上げる。 それを聞いたルイズは、 「すごいでしょ。これくらいなんか、ヴァリエール家の人間なんかへっちゃら何だから」 無駄に、自分に自信を持ったようにエレオノールには見えた。 だからエレオノールは、 「なに言ってるの、ちびルイズ! あんたの功績じゃないでしょ!」 思いっきり右頬をつねってやった。 「いひゃひゃひゃ……ごめんなひゃい」 「ところで、ちびルイズ。あなた虚無の魔法に目覚めたって言うけど、どんなことができるようになったの?ま、どうせちびルイズのことだし、タルブの村で見せたような、失敗魔法の拡大版くらいのものでしょうけど」 ルイズの心は激しく傷ついた。 「ちがうもん!ちゃんとすっごい魔法が使えるようになったもん!」 「そこは『違うんです』でしょ!」 「いひゃい!」 ルイズの左頬は真っ赤になるまでつねられた。 「で、具体的にどんなことができるわけ?ここでやって見せなさい」 だが、ルイズは応えることができない。 「どうしたのよ?」 「えと、虚無の魔法は、精神力をすごく使うの。で、今は精神力が十分たまっていなくて……」 「あきれた。じゃあ、あなたは当分『ゼロ』のままね」 「まて、ルイズはこれでもがんばっているんだ」ブチャラティが口を挟む。 「あんた平民? なら黙っていなさい!」 エレオノールの高飛車な剣幕にしかし、ルイズの使い魔はたじろぐ様子を見せない。 「断る。俺は相手が貴族だろうが王族だろうが、正しいと思ったことを行うクチなんでね」 「ブチャラティ……といったかしら?あなたには使い魔としての『教育』が必要のようね……」エレオノールの口調はあくまで冷静のようだが。 ルイズにはわかった。 ――エレオノール姉さまは激しく怒っているわ! その証拠に、ねえさまの眼輪筋がピクピクとうごめいてるもの! 「ルイズ、あなたの使い魔、しばらく借りるわね……ミス・シエスタ。あなたの相手は明日になりそうだわ。しばらく待っていて頂戴」 「わ、わかりました」とはシエスタの弁。 ルイズは、自分の使い魔の危機を肌で感じ取った! 「そういえば、ブチャラティは暇つぶしで忙しいんだったわ! ねえさま、そういうわけだから」ルイズはとっさの一言は、 「言ってることが矛盾してるぜ、ルイズ」反対にブチャラティに慰められた。 「いい度胸じゃない、ブチャラティとやら。このアカデミーの中庭にはどういうわけか教練場があってね、そこまで来なさい」エレオノールはやけにさわやかな笑みを浮かべて、ブチャラティの返事を待たず、一人去っていったのだった。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――― その日、トリスタニア王宮の外交の間にて、アンリエッタは一人の黒髪の青年に謁見を賜っていた。 ロマリア皇国からの使者を名乗る男は、物怖じすることもなくアンリエッタにの眼前に跪いていた。 彼はなぜか、右手にだけ白い手袋をしている。 「どうしても、アルビオン帝国に対して異端宣告を出すことはできないというのですか?」 アンリエッタは詰問した。詰問というよりは、憤怒の声であった。 「まことに申し訳ない。彼らは、始祖の教えに関しては偏執的ともいえるほど教義に従っておりますゆえ」 ロマリアからやってきた、元司祭と名乗る黒髪の男は、まるで悪びれた様子を見せず、アンリエッタに再度頭を下げた。 「始祖ブリミルの末裔である、アルビオン王家の血族を根絶やしにしてもですか?」 「それに関しては、私個人としてはまったく姫様に同感なのですが。アルビオン王家はかつて教会に税をかけようとしたことがありまして。考えようによっては、『始祖の教えを破ったアルビオン王家を、貴族派が忠罰した』といえなくもないのでございます」 「何ですって!」 そう叫んだアンリエッタをさえぎるように、 「待ちなさい」 マザリーニが発言した。 明らかに無礼だが、この際仕方がない。 「それは、ロマリア皇国の考えですかな?」 「いえ……とある枢機卿の個人的な発言にございます」 「なるほどな。では、教皇聖下はなんと?」 「それについてはご容赦を。ですが、我々、ロマリア人の義勇兵を送ってきた事実からご推察ください」 「了承した。姫様、ロマリアは我々の味方をしてくれそうですな。今のところは」 マザリーニはそういいながら、アンリエッタの顔を盗み見て、表情を確認した。 どうやら、アンリエッタは落ち着きを取り戻したようだ。 「わかりました。トリステイン王国は、あなた方義勇軍を快く受け入れます。別命あるまでトリスタニアの街を楽しんでいってくださいまし」 アンリエッタはそういうと、マザリーニに頷いた。 マザリーニはロマリアの男をつれ、彼の宿舎へと案内していった。 アンリエッタはため息をつくと、自分の執務室へと向かっていった。 その日のアンリエッタの朝見はこれを最後に終了したのだ。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――― アンリエッタの部屋には、すでに人物がいた。 「失礼しております」女の声がアンリエッタの執務室に響く。 「何用ですか、アニエス」 アンリエッタにそう呼ばれた女性は、近衛騎士隊の制服の上に、シュバリエの証であるマントを羽織っていた。 彼女が金髪を短く切り上げているのは、その腰に下げた剣を振りやすくするためか。 「女王閣下、アルビオンに放っておいた『草』から、不穏な報告がございます」 「どのような報告でしょうか?」 アンリエッタは机に向かいながら質問した。彼女の視線の先には大量の命令書がある。 「不確実な情報ですが、アルビオンが、トリステイン魔法学院に奇襲をかけ、生徒を人質にする計画があるとか」 アンリエッタはわずかに表情を曇らせた。 「そうですか……彼らも必死なんでしょうね」 「何か対策をお考えですか?」 「アニエス、あなたはどう考えますか?」 そういわれた女剣士は腕を組み、しばし考え込んだ。 そう、この人物は杖を持っていない。 メイジではないのだ。 「私としては、策が『何でもあり』であるならば、この問題を捨て置くべき、と思います」 「どうしてかしら?」 「はい。もし、この計画が真実だとするならば、アルビオンは重大な過失を負うことになります。むしろ、トリステイン王国政府としては、彼らの奇襲が成功し、なおかつ人質を二、三人殺してくれればなおよろしい。トリステインがアルビオンと比べて道義的な国家となり、国際社会において、社会的弱者としての特権を存分に振るうことができます」 「そして、戦争に消極的なトリステイン貴族たちを一致団結させることができる。違いますか?」 「おっしゃるとおりです」 アニエスは自分の凄惨な笑顔をさわやかに王女に向けた。 元が平民である彼女にとって、貴族の師弟は平民の子供となんら変わりはない。 彼女にとっては、生徒たちは絶対的に守るべき対象ではないのだった。 だが、他のトリステイン貴族からしてみれば、到底受け入れられない思想ではあった。 アンリエッタは少し考え事をした後、フフフ、と笑った。 その笑い方にはどこかしら陰がある。 「私もまだまだ甘いわね。その案は却下します。アニエス、あなたはトリステイン魔法学院に赴きなさい。学生に戦時訓練を施すことを名目とします。十分な銃士隊を連れて行きなさい」 「われわれに警備をおこなわせる、と?」 「ええ。ですが、くれぐれも生徒や教員に、真の目的を悟られぬようお願いします」 「了解いたしました。ですが、その前にするべきことがあります」 アニエスはやや引き攣れた敬礼を返し命令に応えた。 「何か?」アンリエッタは自分に問うた。出した命令に漏れがあったのだろうか? 「はい、例のウェールズ公の件で捜索に進展がありました」 その言葉を聴いたアンリエッタの体がこわばる。 彼女にとって、ウェールズの単語は、今では半ばトラウマになっていた。 だが、今の彼女は女王である。そのような感傷は許されない。 「私がウェールズ様……あの死体と一緒にこの城を抜け出したとき、衛兵とは一人も顔を合わせませんでした。あの時に、衛兵に指示をだせた人物は多くありません」 やはりあの男か……アンリエッタは歯噛みした。先王の時代から使えていたあの男は、いつからこの国を裏切っていたのでしょうか? 父上が死んでから? 父上が国王になってから? それとも、最初から? アンリエッタの思考を打ち切るように、アニエスの小声がアンリエッタの鼓膜を振動させる。 「はい、ですが、その当時命令を受けたと思われる衛兵達は、当日ウェールズ公を追いかけ、みな死にました。決定的な証拠はありません」 「ならば、こちらから『仕掛ける』必要がありますね」アンリエッタは言った。 アニエス・シュバリエ・ド・ミランは一人、用命を果たすために王宮の外へと、とトリスタニア王宮の回廊を歩いていた。 彼女の帯びた長剣が、カチャカチャと不快に高い金属音を生じさせている。 そのリズムに合わせるように、近くにいる貴族たちのヒソヒソ声が、アニエスに聞こえよがしに響き渡る。 「剣などと……無粋よのう」 「所詮あやつは粉引き風情(ラ・ミラン)ですからなあ」不快な笑い声が、空気の振動となってアニエスの周りをおおう。 だが、彼女にとってはいつものこと。気にせずに通り過ぎる。 いや、通り過ぎようとした。 この日に限っては、アニエスは自分に対する嫌味の言葉に対し、硬い表情をした。 彼女の前方、陰口をたたく貴族たちの一団に、『ある人物』がいたのだ。 ――リッシュモン高等法院長―― アニエスは、先日『草』が捕らえたばかりの情報を瞬時に脳裏に引き出した。 ――こいつが、国家の『裏切り者』―― アニエスはその中年男性を凝視した。 ――証拠はないが、この男でしかありえない―― リッシュモンが、アニエスの視線に気づく。 ――そして、この男こそが、私の『仇』―― 「やあ、粉引き娘殿。今日も姫様のご機嫌とりで忙しそうですなあ」 ――そして、おそらく『ダングルテールの虐殺』の張本人―― 「アンリエッタ陛下はすでに女王だ。姫様ではない」 「そうでしたな、私としたことが。先王や皇后陛下が政をつかさどっていたのであれば、魔法の使えない連中がこの王宮を我が物顔で歩き回る光景を許すはずがなかろうものですなあ」 「それ以上の暴言は王室への侮辱と受け取ります」 リッシュモンはおどけた様な笑みを浮かべる。 「おお、怖い。私はこれでも由緒ある貴族の端くれ。正当な王室に歯向かうなどとは考えたこともない。それにしても、その物言い。それではお前が『アンリエッタ陛下の権力を私の物としている』うわさされても、仕方のないことですな」 アニエスはリッシュモンの目をますますにらみつけた。 それを意に介さず、リッシュモンはアニエスに話し続ける。 「先王の時代はよかった……平民は働き、貴族は戦う。それぞれが己の本分を全うし、お互いに相手の領分を侵そうなどという不遜な輩は現れなかった」 「時代は変わるものです」 「そうだな。だが、よいものは時代が変わっても本質は変化せぬものとわしは思う」 「近頃の『変化』が気に入らぬ様子ですな」 「ふん。まったく最近の平民共は。他人に管理育成されなければ、無軌道に自分のやりたい放題に生きて、抑揚というものを知らぬ。あのダングルテールの村人共も、そのように考えもなしに『実践教義』などたわけた代物に飛びつきおって。貴族と平民は始祖の前において平等だと?」 アニエスの目が光った。 「ダングルテールの虐殺は、あなたが立件したことでしたな」 「何を言っておる。アレはただの鎮圧行動だ。それにあやつらは国家の転覆を図っていたのだ。奴等には当然の結末だよ」 「なるほど。反逆罪には死を与えてもよい、か」 「どうした、アニエス。何か含むことあるようだな?」 ――私はお前を惨殺できる、というのだな―― 「いえ、あなたの方法には賛同できかねますが、結論にはまったくの同意見です」 彼女はそう答え、一礼をして王宮を出て行った。 アニエスの思わぬ言葉と礼儀正しさに、リッシュモンはあっけにとられた。 「そ、そうか」彼はアニエスの背中にそう答えたのだった。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 平穏だったトリステイン魔法学院に、騒音を持ち込んだのはやはりアニエスだった。 彼女は目の前の男に向かって節度ある話し方をしていた。 目の前の男、岸辺露伴は、 「つまり、僕とブチャラティにアンリエッタを『かくまえ』っつーことか?」 ぶっちゃけ、やる気が見えない。 いま、アニエスは露伴と二人っきりで話をつけている。アニエスとて、ブチャラティと直接交渉したいのであるが、ブチャラティは、ルイズやシエスタとともにアカデミーにいて連絡がつかないのだった。 「まあ、無駄な修飾を省けばそうなるな」 「う~ん。僕はめんどくさいなあ~」 「その後の大捕物を観察できるぞ」 「なら、仕方がない、手伝ってやるか。感謝しろよ、アニエス」 「相応の働きをすれば、それなりの感謝と報酬は保障してやろう」 アニエスは計画の仔細を露伴に打ち明けた。 「ふん。きにいらないな、その方法は。やり口が汚くて読者に好かれない」 「何とでも言うがいい」 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 三日後、トリステインの安宿にて。 「よろしくお願いいたします」アンリエッタは町娘に扮した格好で露伴と話していた。 「今さらだが、筋書きを確認しておくぞ?」露伴がいう。 アンリエッタがウェールズ公と逃げ出した日のことだ。 彼女たちが城から出て行ったとき、警備の人間とは出会わなかった。 証拠はないが、そのように当日の警備を変えた人間がいたのだ。 つまるところ、トリステイン王宮の内部に『レコン・キスタ』の人間がいる、ということである。 今回、アンリエッタがアニエスの手引きで王宮からひそかに外出し、人目を忍んで露伴と会っているのはわけがある。 「で、もう一度あんたが『失踪』すれば、トリステインの『裏切り者』は、アルビオンの仕業だと思い込む」露伴は部屋の外を伺いながら言った。 「ええ、そうすれば、『裏切り者』は、今回の『失踪』を、アルビオン側に問い合わせるでしょう。スパイの連絡網を使って」 「そして、その『連絡者』が、この宿のどこかに潜んでいるってわけか……」 「ええ、そろそろアニエスがつれてくる筈なのですけれど……」 そう話しているところ、宿の廊下をどやどやと大人数が走り回っている。 さすがは安宿、床の軋み声がものすごい。 走行しているうちに、二人のいる部屋の扉が、乱暴にノックされた。 「おい! あけろ! 俺たちは女王様をさらった人間を探しているものだ!」 アンリエッタは少しだけびくついたが、それも一瞬のこと。落ち着いて露伴に頷いた。 露伴は無言で頷き返すと、おもむろにドアを開ける。 『ヘブンズ・ドアー!』 一瞬の間のあと、廊下に立っていたマンティコア隊の隊員と見られる男はあっけに取られた様子で露伴を見つめていた。 「お前はここではアンリエッタを見つけてはいない。そうだな?」 「あ、ああ……よし、次を探すぞ!」その男は半分ほうけた風になりながらも、見つかるはずのない女性を捜し求めて去っていった。 入れ替わりに、若い娘が大きな麻袋を抱えて部屋の中に入ってきた。 「待たせたな、露伴」アニエスだった。 彼女は肩に抱えていた麻袋を無遠慮に床に落とす。 「ぐぇ!」中から苦悶の声がする。 アニエスが袋の口をあけると、中には若い男が猿轡をされた状態で入っていた。 彼の目は敵対的な目つきをしている。 「なるほど、結構根性がありそうだ。簡単には口を割りそうもないな」露伴が男の様子をじろじろと見ながら言う。 「当たり前だ。われわれは貴族だ! 貴様らなんぞに!」猿轡をはずされた男は開口一番、そう言い放った。 だが、 「関係ないね」露伴はそう言い放つと、 『ヘブンズ・ドアー』問答無用に彼の頭の中を覗き込むのであった。 「どうですか、露伴さん?」 「アタリだ。やはり『裏切り者』はリッシュモンだ。それにしてもすごいな。やつはアルビオンから一億と四十万エキューの賄賂をもらっているぞ」 アンリエッタは嘆息した。が、彼女は気丈にも気を取り直した。 「ならば、彼の元に向かいましょう、露伴さん」 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――― タニアリージュ・ロワイヤル座の劇場の中に、リッシュモン卿は一人入っていった。 開幕が真近だというのに、ほとんど観客がいない。 と、いうのも、役者の腕が悪すぎて批評家たちに酷評され、人気がまったくないのであった。そのようなくだらない内容にもかかわらず、彼は毎週のようにこの劇場に来ていた。そして予約していたらしき席にすわり、ひたすら開演のときを待っていた。 次に入ってきたのは岸辺露伴である。彼はリッシュモンに気づかれることのないように、席の最奥に、一人ひっそりと陣取ったのであった。 開演してしばらくたった時のこと、リッシュモンの隣の空席に、フードをかぶった少女が座り込んだ。 「失礼だが、そこは私の待ち人が来るのだ」リッシュモンは言った。 だが、少女は席を立つ様子を見せず、フードを跳ね除けた。 果たしてそれはアンリエッタであった。 「アンリエッタ様ではないですか。あなたは失踪したのではなかったのですか?」 「私がアルビオンの手勢に攫われたのがうそなのが、それほどまでに悪い知らせのようですわね」 「なにをおっしゃる。ご無事で何より」 「お互い、無駄なごまかしは無しにいたしましょう。ここであなたと会うはずのアルビオン人はすでに捕縛してあります。あなたが裏切っていたことはもうすでに自明の事ですのよ」 「ほう」リッシュモンは、興味を惹かれた風に頷いた。まったく驚いたそぶりを見せない。 「クロムウェル殿は、私をアルビオンまで連れて行きたいようでしたからね。そのうえ、苦労して作ったトリステインのスパイ網が、あなたの逮捕によって一網打尽になるのですから。あなたの真の主にとって、とても悪い知らせになりそうですわね」 「まあ、このままではそうですな。ですが、私がこのままあなたをアルビオンに連れてゆけばよいまでのこと。そうすれば、『Oh、グッドニュース!』に早変わり、というわけですな」リッシュモンはそういうと、やおら立ち上がり、ぱちんと指を鳴らした。 次の瞬間、舞台の上に上がっていた役者たちが、やおら懐に入れていたらしき杖を取り出し、その先をアンリエッタに向けた。 「さて、私と一緒にアルビオンまでご足労願いましょうか」 わけもわからずに逃げ惑う少数の観客の中、アンリエッタはリッシュモンにつれられえて舞台の中央に引きずり出された。アンリエッタをスポットライトの光が襲う。 「役者はみなアルビオンの手勢でしたのね。どおりで、演技が致命的なまでに下手でしたわ」アンリエッタが淡々と言う。 「そのとおり。ですが、舞台装置は逸品ですぞ。いくら王族といえども、これだけのメイジを相手にはできないでしょう」 「そうね、『私一人』では、この窮状をどうにもできないでしょうね……」 「私は芸術を監督する高等法院官。あなたのお美しい顔を無碍に傷つけたくはない。さ、おとなしくしていただきましょうか」 「いやだ、といったら?」 「それは、私の本意ではないのですが、無理やりにでも連れて行きます。どうします? ここにはあなたの味方はいない。銃士隊の一人すらいやしない。絶対絶命というやつですな。それとも、先ほどから席の奥にいる、あの奇妙な男が何かするのですかな?」 「いや、僕はもう何もしないさ」露伴はつぶやいたが、誰の耳にも入らなかった。 その代わりに、アンリエッタの声が響き渡る。 「ならば仕方がありませんわ。あなた方に同情いたしますわ。情けはかけませんが」 「なにを言っておられる?」 「おいでなさい! 私の『使い魔』!」 次の瞬間、アンリエッタの隣に、醜悪な紫色の人影が出現した。 「なんだ、これは――ぐぁあ!」 アンリエッタのすぐ隣にたっていた、元役者のメイジが昏倒した。泡を吹いている。 それを皮切りに、次々に、舞台の上に立つものが倒れていく。 みな、無残に皮膚が溶け出し、苦悶の表情をかもし出している。 「うばしゃあぁぁぁ!!!!」 アンリエッタのそばに立つ人影は、涎をたらしながらあたりに向かって霧のようなものを出している。 「なんだッ、これはッ!」 リッシュモンはそう叫んだ。彼の脳裏は、現在起こっている状況を把握することを拒否した。 アンリエッタは、狂信の信徒が異端者を見る目つきでリッシュモンを見た。 「私の使い魔、『パープル・ヘイズ』。性格は凶暴ですが、慣れるとかわいらしいものですわ」 アンリエッタはそういうと、自分のハンケチを取り出し、愛おしそうにパープル・へイズの涎を拭いてやった。そして、両手でパープル・へイズの顔を覆うように優しくなでた。 「ふふふ……私のパープル・ヘイズ。お利口さんね」 「ぐぁふぅッ!」パープルヘイズは、主人によくなついたプードル犬のような目つきでアンリエッタを見つめている。 時が時でなければ、よい主人とよくなついたペット、といえようもなくはなかった。だが。 「ば、化け物めッ――」リッシュモンはうめいた。 アンリエッタがパープル・ヘイズと耽美な時を過ごしている間にも、彼の手勢は次々に惨殺されているのだ。 「さて、今生の覚悟は御済みになって?」アンリエッタが聞く。 その傍らには戦意十分のパープル・へイズ。 気がつけば、舞台の上で生きている人間は、アンリエッタとリッシュモンだけになっていた。 リッシュモンは、引きつった笑顔を隠すことができない。 人間がおびえた時の、恐怖の笑いだ。 だが、 「まだまだですな」彼はそういい、床を強く踏みしめた。 次の瞬間、彼の足元に穴が開き、彼の姿を飲み込んでいった。 その部分は、舞台のせり担っていたようである。 リッシュモンは逃がした。だが、アンリエッタはまったくあせる様子を見せない。 「アニエス、後は頼みましたよ……」 彼女はそういったあと、パープル・ヘイズを見えなくしたのだった。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「あのアマ、とんでもない隠し玉をもっていたな……」 リッシュモンはそういいながら、暗がりの中、トリステインの下水をたどるように歩いていた。その行く手に立つ影がひとつ、 「ここまでだ、リッシュモン。お前の悪事も、この薄汚い溝で清算する日が来たようだな」 アニエスであった。 だが、リッシュモンはアニエスの言葉に動じる様子はない。 「人は誰でも『救い』が必要だ……」 彼は呟いた。 「わかるか、この意味が……」 「何を言っている?」 「私はただ金や地位がほしくて高等法院という地位にまで上り詰めたのではない」 「お前が無辜の平民を奴隷のように扱いたいたかったのか?だがそれも今日でおしまいだ」 リッシュモンは頭を振る。 「アニエス。お前は何もわかっちゃいない。」彼は不敵に笑う。 「この世には二種類の人間が存在する。いいか、『二種類』だ。男女の違いでは断じてないぞ? それはな、『支配されるもの』と『支配するもの』だ。 陳腐な言い草のようだが……この世には、与えられた自由をもてあましてしまう人種が存在するのだ」 「何が言いたい!」 「つまり、アニエス。お前のような、魔法の使えない、この世では暴力でしか立身出世できない人種のことだ。 知性が暴力に勝るように、アニエェス! お前はわし達、真の貴族にとって単なるナイフにしか過ぎんのだ!」 「ふざけるな! 私は人間だ! 自由意志を持つ、お前たちと同じ人間だ!」 「違うな。私は始祖ブリミルの遺体に選ばれたのだ! 今! 証拠を見せよう!」 リッシュモンは懐から何か長細いものを見せた。 「何だッ――それは、リッシュモン!」 「今こそ、『始祖ブリミルの脊椎』よ!われを導き給え!」 リッシュモンの体が鈍く光る。 それと同時に、あたりに夕日の光が充満していった。 一瞬の間のあと、アニエスは気づいた。 これは……いや、ここは…… 先ほどまでいたはずの下水の通路とは、あまりにも空気が違いすぎる。 ダングルテール? いや、それよりも、リッシュモンは? アニエスの背後で、リッシュモンの声がする。 「いやはや、お前まで始祖の恩恵を受けるとはな……ちょっとした計算外だ……」 「リッシュモン。これが、この瞬間移動がお前の切り札か?」 「そうだ、いや、『そうだった』。やはり私は運がいい。転移先がここだとは。私は第二の切り札が使えるようになった! みよッ! これが、私の最後の切り札だッ!」 リッシュモンは懐から銀色の円盤を取り出し、それをためらいもなく頭に差し込んだッ! 次の瞬間、信じられない光景がダングルテールの町跡に繰り広げられた。 燃え盛る火、火、業火。 逃げ惑う人、焼かれる人。それに向かって無心に杖を向けるメイジの一団。 突如出現した人々は、どの人間の表情もうつろだった。 アニエスが戸惑っている間にリッシュモンはメイジの一団にまぎれていった。 リッシュモンの声が響き渡る。 「どうだ、わしの切り札『アンダーワールド』は。脊椎で転移した場所がここでよかった。ここでは、メイジ以外の人間はみな焼け死んだ。どうするアニエェス! このまま、焼け死ぬがいい!」リッシュモンは、すでに煌々とした表情をしている。 「人類が品種改良した家畜は自然界では簡単に淘汰される。 狼などの野獣に、簡単に食い殺されてしまうからな…… あいつらが生きていくには、人間の保護が必要なのだ。 家畜が自然界で生きられないようにッ! お前たち平民がッ! メイジの加護なくして生きられようはずがないのだぁッッッ!」 「ならばッ! そのための牙だ! われわれは自ら生きるためにッ!六千年もの忍従の時を経てッ! 剣や銃という牙を研いできたのだ!」 アニエスは近くの民家に身を潜める。だが、そこにもメイジの一団が容赦なく火炎の魔法を浴びせかけてくる。 「くそッ。絶体絶命か……」 そう考えるアニエスのもとに、一人の少女が背後から歩み寄ってきた。 「この村の大人たちはみな焼け死ぬの……私のお父さんも、お母さんも…… これからあと十分後、私の両親は二階で抱き合ったまま焼け死んじゃうの…… それはもう決まったこと。誰にも変えられないわ」 アニエスは思わず、その少女を抱きしめた。 「大丈夫だ。お前は私が守ってみせる」 「いいえ、あなたには私を救うことはできない。これは過去に起こった地面の記憶。誰にも過去に起こった出来事を変えることはできない」 「そんな……」アニエスは絶句した。だが、同時に、あることに気がついた。 「どうした、もうあきらめたのか?」リッシュモンの嘲笑じみた怒号が、火の街を響き渡らせる。 リッシュモンの目の前に、アニエスが現れた。 彼女は村の少女を小脇に抱えている。 「観念したようだな」リッシュモンはきざに杖を振り回し、火炎の魔法をアニエスに向けはなった。 だが、アニエスはまったくよけようともしない。 それどことろか、少女をたてにして、リッシュモンの方向へと駆け寄ってくる。 「馬鹿な!そんな餓鬼ごとき、お前もろとも焼き尽くしてくれるわ!」 リッシュモンの放った魔法は直径三メイルほどの火球となってアニエスたちを襲う。 だが、刹那。 どういうわけか、彼の放った魔法は少女の前面で掻き消えた。 「なっ!」リッシュモンの驚愕は一瞬、だが長い一瞬の間であった。 「うぐッ!!!」間合いのつめたアニエスの長剣が、リッシュモンの腹を貫く。 「あの時私は焼け死ななかった! 私は生き延びた! この過去の記憶は、誰にも変えられない!」 「そうか……貴様……生き残りか……」 「そのとおりだ。今こそ、ダングルテールの民の敵、討ち取る!」 アニエスは突き刺した長剣の柄をねじった。そこから、リッシュモンの体内に酸素が猛毒となって送り込まれる。 「畜生……貴様ごとき……下賤の平民風情に……」 終わった。 アニエスは地面に倒れこんだ。両膝ががくがくと笑っている。 『幼いアニエス』を盾にしたからといって、リッシュモンの魔法をすべて『いなした』わけではない。今の彼女には、立ち上がる気力をためる時間を必要としていた。 「お姉ちゃん、大丈夫?」少女が言った。 「ああ、もう大丈夫だ」そう答えたアニエスは、少女が半透明に消えていくのに気がついた。 「おまえ……」 「ええ、スタンドの力がつき始めたのよ。その前に、パパやママのところに行かなくちゃ。そこで、私は気を失うの」 アニエスは後を追おうとしたが、足に力が入らない。 「まて……」 アニエスの言葉に耳を貸す様子もなく、少女は納屋の二階へと上っていった。 そこから話し声がする。 「…この子だけでも……」 「…疫………て持って…ない・・・」 どうやらそこに、実験小隊の指揮官がいるようだ。 なんとしても、その男の小隊長を突き止めねば…… アニエスは残りの力を振り絞って、張って二階に向かっていった。 だが、そこにはすでにメイジの姿はなかった。 変わりにいたのは……平民の夫婦だけ。 だが、アニエスは、その二人に見覚えがあった。 「……パパ…ママ……」 二人はアニエスの存在に気づくことなく、ベッドの上で静かに息を引き取って言った。 最後に、 「アニエスに、神のご加護が……あらんことを……」と呟きながら。 「パパ!ママ!」 アニエスが一瞬送れてそう叫んだ先には、土の壁しかなかった。 リッシュモンのスタンドの力が尽きたのだった。 「母さん……父さん……」 アニエスは、止め処もなく流れてくる涙を、どうにかして止めようとしても、もうどうにもとめられなくなっていた。 第五章 カネによる忘れられゆく記憶 Fin...
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「…うぐぇあ…気持ち悪い……二日酔いか…?」 ポルナレフはソファから身を起こすと、よろよろと立ち上がった。 「お、ようやくお目覚めか相棒。」 「ん…ああ…あ?」 ポルナレフが首を傾げる。 「いつの間に亀の中に戻った?確かシエスタと酒を飲んでて…?」 デルフがカタカタ震え出した。 「どうした?」 「な、なななななんでもないぜ相棒。そ、そそれより早くしねーと娘っ子にまた亀取り上げられるぜ!」 「あ、ああ。」 ポルナレフはデルフを掴み取った。 「え、あ、相棒!?」 「昨日は迷惑かけたしな。それにまあなんだ。レイピアは持ち運びがな…」 相棒…!とデルフは涙した。目なんか無いけど。 (あ、あの犬ゥゥゥゥ!!) 私は亀の目の前でポルナレフが出て来るのをいまかいまかと待っていた。 (ダンス誘ってやったのに終わったらすぐに御主人様を無視してメイドと逢引ですってぇぇぇ) ちなみに昨晩の騒動の後、水のメイジによる治療を受けられず応急処置しか受けれなかった(今日の内に治癒魔法を受けに行くが。)ため、左腕骨折に加え、頭に包帯、身体のあらゆる箇所にガーゼが貼られている。いわゆる『名誉の負傷』って奴だ。 (何が「俺は帰らなければならない。だが、それまではお前の使い魔だぜ。」よ!思いっきり違う娘に着いていってんじゃない!) ポルナレフの自分に対する態度が全然気に喰わなかった。フーケの時も私を差し置いて他の二人と共に退却を提案した。 それでも見捨てず助けてくれたはいいが、御主人様である私と踊った後すぐに違う女、それもツェルプストーじゃないだけマシだが、メイド、すなわち平民と飲みだしたのである。 貴族である自分が誘われず何故あの平民が誘われなければならないのか(誘ってないbyポルナレフ)そのことが無性に腹が立った。 しかもその平民とキスをしようとしたのである。これには完全に頭に来た。別にあいつが好きという訳じゃないが、平民ごときに負けたのが悔しかったからだ。 気付いたらテーブルを二つ飛び越え、メイドの後頭部に目掛けて飛び膝蹴りを喰らわしていた。 ゴシカァン!という音と共にメイドがポルナレフと正面衝突した。メイドはゆっくりと立ち上がると、その怒り、羞恥、酒で真っ赤にした顔をこちらに向け、 「いいキックしてるぜッ!このアマッ!」 と挑発してきた。私も負けじと 「かかってきやがれッ!」と挑発仕返した。 その時私はワクワクしていた。メイドの最も強い部分が光り輝いて見えた気がした。 「いくぞ!」「私の方が!」「「最強という事を証明してくれるッ!」」 …今思い返せば最後だけ何かおかしかった気がする。 その後、私とメイドはバルコニーを破壊し尽くすまで闘った。終わった時には私もメイドも満身創痍だったし、私のドレスもメイドの服もボロボロだった。ただ、亀とポルナレフはギーシュがワルキューレを使って助け出していたため無事だった。私はギーシュに感謝した。 「よいしょ」ドゲシャ「ガミャッ!」 私は亀から出て来たポルナレフの頭を踏み付けた。ぐりぐりと。 「や、やめろ小娘ッ!」 「そんなことより御主人様に言うことがあるでしょ?ほら早くしないとどんどん強くなっていくわよ。」 「な、何の事だ!」 「あー、相棒。ひょっとしてあのメイドのことじゃね?」 「メイド…シエスタか?だがシエスタがどうした!?」 「全く、相棒はあれかい?女心が分かんないのかい?」 剣が呆れたように言った。ていうかようやく出番与えられたのね。と、そこに コンコン。 「すいません、入ってもよろしいでしょうか?ミス・ヴァリエール。」 あのメイドがやってきた。 とても歯痒い。何故ポルナレフさんは私の気持ちに気付いてくれないのだろうか? 彼がメイジであるギーシュ様をナイフ一本で倒した時、私は彼に惹かれた。メイジを倒した平民としてでなく、可能性としてでもなく、私のような何の力も持たず服従するしかない一介のメイドの為に命を省みず闘ってくれた『男性』としてだ。 彼は私よりずっと年上だろうから親や周りも反対するだろうが、それでも構わないと思っている。 それほどまでに憧れ、慕っているのに…彼は気付いてくれない。 だから常日頃一緒にいるミス・ヴァリエールが羨ましかった。御主人様と使い魔という関係でも私よりずっと長く彼と一緒にいられるのが羨ましかった。 そしてフリッグの舞踏会で二人が踊っているのを見て、ついに我慢出来なくなった。 私は同僚の子に無理を言って仕事から抜け出し、彼の元に行った。 そして… ここから記憶が無い。ただ起きたら部屋にいて頭痛がしたことからワインを飲んだに違いない。そうだとすると何かやらかしてしまったかもしれない。 そう思うとすぐにメイドの共同部屋を飛び出して謝りに行く事にした。 「ミス・ヴァリエール?いらっしゃいますか?」 「ちょっと待ってなさい。部屋を片付けるから。」 中から返事が返って来た。心なしか怒っているように聞こえる。やっぱり昨日何かやってしまってたんだ。 「あんたの愛する平民が来たわよ。犬。ああ、御主人様の部屋に呼んでまでイチャイチャしたいだなんて、どれだけ性欲あましてるんだか。」 ルイズは見下すように言った。いや、確かにシエスタはいい娘だが、別に愛しては…ってデルフよ、なぜ震えている? 「…何か貴様勘違いしているな?俺はシエスタと恋仲ではない。」 「嘘おっしゃい。だったら何で御主人様の見てる前で逢引したり、今もこうやって来てるじゃない。そんな犬にはお仕置きが…」 酷い言い掛かりだ。両方とも身に覚えが無い。あのギーシュじゃあるまいし、そのような事は絶対にしないはずだ。 「何も聞く気はないようだな…この小娘が…ッ」 「何とでも言いなさい。でも…そうねぇ『私が悪うございました。許してくださいまし、私の美しい美しい御主人様』とでも言ったら許してあげようかしら。」 「いい気になりおって…ッ」 「あー?聞こえないわよ?ほら早く言わないとこんな姿をメイドに見られるわよ?」 ぐりぐり更に踏み付けてきた。こうなったらやるしかない。 「…ゼロの癖に…」 腹に力を込める。 「この期に及んでまだ強がる気?阿呆ねぇ…まったく、おたく阿呆ねぇ…」 「生意気だぞッ!小娘がッ!」 俺は身体を海老のように反らせ、亀の中にあった足でルイズの身体を蹴り飛ばした。対メイジように身体を鍛えといて良かった。 「キャッ!」 ルイズの足が離れた隙に俺は走った。目的は窓。 「チャリオッツッ!」 窓をチャリオッツで切り裂き内側に倒す。外に誰かいたらやばいからな。 窓から飛び出すとデルフを抜いてチャリオッツの剣と共にそのまま壁に当てる。摩擦により落下速度を落とすためだ。 ガリガリと盛大に音を鳴らして地上に降り立つとすぐに走った。行き先は走りながら決めよう、と考えると何かにぶつかった。 「な、こんな所に壁が!?」 「壁じゃない!僕の使い魔のヴェルダンテだ!…ん?その声はポルナレフかい?」 この声…確かどっかで聞いたんだが、誰だっけ? 「えーと…プッチ?」 「違う!ギーシュ!ギーシュ・ド・グラモン!忘れたのかい!?昨日助けてやったというのに…」 「昨日…すまない、全然記憶に無い。昨日何があったんだ?」 「本当に覚えてないのかい?あれほどの惨事を?」 「ああ。シエスタと酒を飲んでる所までは覚えてるんだが…そこからが…」 ああ、とギーシュは天を仰いだ。あれを自分から言えというのか始祖ブリミルよ、とだけ言うと、ギーシュは丁寧に教えてくれた。 「…というわけだ。後は自分で何とかあの二人を抑えたまえ。」 それだけ言うと笑いながら去って行った。 「…デルフ、何故教えなかった?」 「だって恐かったから。」 「…」 「昨日はすいませんでした。ミス・ヴァリエール。」 メイドは入って来るなりいきなりそう言った。 「はあ?」 訳が分からなかったので話を聞いてみると昨日は酒に酔ってたらしく、そのために無礼な事をしてしまったと謝りに来たらしい。別にポルナレフに呼ばれたり、会いに来たという訳では無いみたいだ。 しかも本人いわく自分から一緒に飲もうと誘ったらしい。なんだ、全て私の勘違いじゃないか。また謝らなくちゃ…その前に探さないと! 「シエスタだっけ?頼みがあるの。一緒にポルナレフを探してちょうだい。」 「え?あ、はい!」 私とメイドは学院中を探しだした。 「相棒、何処向かってんだい?」 「厨房だ…あそこならルイズも分かるまい。」 「そんなに上手くいくかねえ?」 厨房までもう少しで着く所で見つかった。 「ミス・ヴァリエール!いました!」 いきなりの大声にギクリとし、後ろを振り向くとこちらを指差すシエスタと猛然とした勢いで突っ込んでくるルイズが見えた。 「ほら行かなかったw。」 「笑うな。」 パチンとデルフを鞘に収めると降伏するつもりで両手を挙げた。自分の直前でルイズが停止する。 「はぁ、はぁ、一体何処に行ったと思ったらこんな所にいたの…」 「ふん。今更何のようだ?何度もいうが俺は…」 「まったく、少しは弁明させなさいよ…」「?」 「あの娘から聞いたわ。あんたは本当に何も悪くなかったようね。」 おいおい今更か。 「だから…あーその…ごめんね?」 「え…ああ。」 正直、此処まで勘違いしやすい主人も考え物だ。簡単な話でも相手の主張を認めないから此処までこんがらがってしまう。だが素直に自らの過ちを認めた時の謝り方は、どこかかわいらしいものがある。娘みたいな感じの、がな。 そんな自分達をシエスタは嫉妬に駆られた目で睨みつけていて、デルフはその視線にまた震えていた。 ああ、明日からがまた不安だ。誰か俺の女難の相を取り除いてくれるスタンド使いの方、待ってます。 To Be Continued...
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ゴォォォオオォォ (ン…こいつ、は…?) うっすらと目を開けた東方仗助が見たのは窓ごしの吹雪 窓というのは車の窓だ いつか、どこかで見たことのあるこの光景 身体を起してみようとするが思うように動かない ・ ・ ・ ・ ・ 車の助手席に寝かされていた仗助は小さかった シートベルトでがっちり止められ、すこし油断すると意識がモウロウとしてきた 「なんてことッ!」 ハッキリと聞き覚えのある声 妙に若すぎる気がするが間違いない、おふくろだッ 「家にいる時、救急車を呼ぶんだったわ! 救護の人に「ただのカゼですよ」って言われようとも 仗助をこの雪の中へ連れ出すんじゃあなかったわ!」 そういえばカゼだった もう何日も高い熱を出して寝込んでいた 最初はノンキこいてたおふくろも 二日目には真っ青になっていた こんなにひどくなるとは誰も思わなかった 今は病院へ車を出して急いでいたが 雪にタイヤをとられて動けなくなっていた ここらは畑だ 窓の向こう一面、ナンにも見えないッ マズイのは仗助だけではない このまま誰もここに来なかったなら 吹雪の中、明日までここに放置されるのならッ (おふ、くろ…) ギャルルルルルン ガリッ ガガガッ アクセルを踏み続ける母に仗助は思った 「誰か助けに来てくれ」と まだ小さくて弱っちい彼自身には どうすることもできはしなかったのだから だから彼は望んだのだ 「ヒーロー」の登場を そして…彼は来た (…あれ?) 何かおかしい そう、確か…ヒーローは「彼」だったはずなのに (なんか…チビ!! だなァ…? それにこの雪ン中、マントにブリーツってよォ~) 足首までめり込む雪の中をズカズカ踏み進んできたのは女ッ チビとまではいわないが なんというかこれは…やっぱり、オカシイッ!? その、桃色がかったブロンドの髪の女が車をのぞきこむと 仗助の母は気おくれしながらジャケンに言った 「何の用? あっち行きなさいよ」 女はそいつを完ッ璧に無視コイて 魔法の杖を振っていた 「アンロック」 ドボォォ そしてナゼか爆発 「解錠(アンロック)」なのにッ ドアだけブッ壊れて飛んでいったから そーと言い張ればそーなのかもしれないが 仗助と母は雪を浴び 口からプスプスとケムリを吐き上げながら ジト目というか何というか 「アキレた」ともチョット違って でも、とにかくそーゆーナマ暖かい目つきでそいつを見るしかなかった ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ だが、真にワケがわからないのはそこからだった 「な、待ッ…コラ!! アンタッ 何する気、仗助にィィィ―――ッ!!」 女は助手席に腕を差し込むと仗助を取り上げ抱きかかえ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ その唇に顔を近づけてきたのだッ 「いつまで寝てンのよ さっさと目を…覚ましなさいッ」 (おい…ちょっ、これはッ!? ナニをする気だ、ナニをッ もしかして、もしかするのかぁ~~~ まだ心の準備が!! 純情なんスよ仗助くんはッ こういうのは、その、モット色々手順をフンでだな…ロマンチックに つーかオマエ誰ェェェェェ―――――――ッッッ!?) 「おぅわぁぁあぁ―――ッ!!」 グワン 「きゃ…」 ガツーン 仗助の目に火花が散った 頭というか顔面に何かブツカった イタかった仗助が思わずまわりを見回すと、 少し広めの部屋でベッドに寝かされていたことを理解した 窓を見ると、今は夜 ビビッた拍子にはね起きたらしい そして次に気にしたのが 今、顔をブツケてしまった何かは一体? 「イッ、タッタッタタ……うぅッ」 すぐにわかった そばに誰かうずくまっていた 顔をおさえているのは 同じように顔をぶつけたからだろうか? しかし、それにしても (なんだぁー この服装 ハウス名作劇場に出てくる召使いサンじゃねーのか? ってェと、ここは一体…) もう一度、まわりを気にする ズイブンとアンティークな趣味の部屋だった こういうのも探せば珍しくはないだろうが 中世っぽさがとかく徹底されているのだ (ヨーロッパの貴族サマ気取りかよォォ―― この家の主人はッ だけど待て、オレに一体何があった?) 東方仗助は記憶をたどる どこからオカシクなったのか? 「そうだ…オレは確か 亀、イジってたよな? 恐怖を克服しとこうと思って…入学式の後で」 口に出し、ひとつひとつ確認していく やっと痛みのおさまったらしい「ハウス名作劇場」が 鼻を押さえたまま横に立っていた …あっ!! 気づいた そういえば、さっきやっちまったんだろうがッ 顔面と顔面の正面衝突をッ 「す、スミマセンでしたッス!!」 あわててベッドから抜け出し、深ーく頭を下げる 身体のあちこちに包帯が巻かれているが 動き回っても問題なかった しかし、それよりも バッ ザザァッ 「あ…め、め、滅相もありません、貴族様ッ お、おおお、お顔を…お顔をお上げ下さいッ」 「ハウス名作劇場」の反応は仗助にとってショック!! 彼女は頭を下げた仗助のさらに下を行くように その場にひざまずいてしまったのだッ 「え、な…き、貴族様ァ? ちょっと待ってくれ、話が見えねー」 平伏したまま動かれないでは仗助は落ち着かない 「と、とりあえずよォー 頭上げて下さいよ、立って下さいッス これじゃオレが恐縮しちまいます」 「…?」 よくわからないような顔をしながら 彼女はおそるおそる立ち上がる 「え、えェェ――っとだな… まずはイイスか? 名前聞いても」 「あ、はい…シエスタと申します」 「シエスタ」か 見たところ日本人らしさがないのはわかっていた 髪が黒いのを見ると混血の外人か …にしてもウマイな、日本語 そんなことを思ったが それよりも人に名乗らせたなら自分も名乗るのが礼儀だった 「オレは東方仗助、仗助でいいッスよ」 「ジョースケ様、ですね」 「サマはつけないでくれ、サマはッ コソバユいったらねー」 「…そ、そうは仰いましても、私のような下賤の者が」 「ゲセンって… だから、そこらへんワカンねーんだよなぁー オレのどこがそんなにエライわけ?」 「うっ…」 ジワッ 仗助はソボクな疑問を素直に聞いてみただけだった だがシエスタは冷汗を額に浮かべて言葉を詰まらせてしまっている 「ウカツなことを言えない」ような雰囲気だ どうしてこんなにうろたえるのか? さすがに仗助も困り果てたが ポタッ シエスタの形良い鼻から何か垂れたのを見て思い出した どうして自分が頭を下げたのか? 「鼻血、出てるじゃないッスか」 「…こ、これは、見苦しいものを…お許し下さい」 (イヤ、だからそれ、オレのせいだし) 口に出すとまたややこしくなりそうだったので やることをさっさと済ますことにした 「ちょっとこっち来なよ…そう、なるべく近くに」 「? はい…」 言われたとおり近づいてきたシエスタの頬に 仗助は右手をそえる 四歳の頃、突如身についたあの力をつかうのだ 他人にみだりに見せつけるものでもないが キズついたのが自分のせいなら使うのがスジ 仗助は単純にそう思った ズギュン 「これでよし 鼻血はもう出ねぇーッスよ」 「えっ?」 「ちょっとしたオマジナイをかけたッスからなぁー 痛みは無いッスね、どこも詰まったりしてないスよね?」 不思議そうに鼻先をいじっていたシエスタは やがて笑顔になって仗助にうなずくと 「偉大な魔法をお使いになられるから、おえらい方なのですよ…ジョースケ様」 「は?」 「ルイズ様をお呼びします。 ここでお待ち願えますか」 バダム 仗助を(いろんな意味で)置いてけぼりにして部屋から出て行った 「魔法を使う=エライ」 拾えたキーワードとしてはこれだったが つまり、オレのこの力=魔法? 困惑は深まるばかりだ だが彼の困惑はこれごときでは終わらない 本番はここからッ ドタァァーン やけに力強く開け放たれたドアの向こうから現れたそいつはッ!! 「起きたわね わたしの、使い魔ッ」 「おまえ…夢のッ ちがう、それだけじゃない、確か、おまえ」 ―――君が突然、現れたッ!! 7へ
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―ここでいったん時間はルイズがくぼみの中に入る場面に戻る ほとんどの生徒がまだ笑っている中、三人の生徒だけはまったく違った反応をしていた。 一人は先ほどの爆発のため起きた爆風をもろに喰らってしまい、壁に衝突、血まみれで反応のできない状態になっているちょっと、いや、かなりぽっちゃりとした少年。 一人は先ほどからの騒ぎの中でもわれ関せずというようにさきほど自分が召喚した風竜にもたれかかって本を読んでいる、透き通るような白い肌と青い髪を持った少女。 そしてもう一人は・・・ 使い魔の兄貴(姉貴)!!~となりのキュルケ~ 「ねぇ、タバサ、見た!?見た!!?あの子成功したわよ!!やっぱりやればできるじゃない!! でもあの子あんな見ず知らずのどこの馬の骨ともわからない平民に近づいちゃって、へんな事されたり怪我したりしないかしら?大丈夫かしら?ねえ!ねえってば!! どうしよう、もしあそこで寝てる男がルイズに襲い掛かったりしたら・・・危ないわ、うん、ものすごく危ない!!ルイズが心に傷を負っちゃったりしたらどうしよう ・・・いや、考えようによってはそれも良いかも。その傷ついたルイズの心を私が誠心誠意癒せば、彼女は私なしでは生きられなくなるってことよね、そうなったらはれてルイズと私は、私はルイズを、ルイズが私で、私がルイズで・・・・・・・・・うふふふふふ」 と召喚したルイズ本人よりもいろんな意味で興奮しているグラマラスな身体と褐色の肌、燃えるような真っ赤な髪を持つ美女。 タバサと呼ばれた少女は腕にまとわりついてくるその美女、キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーを振り払い一言 「心配ない」 とだけ言う。 そう、心配ないのだ。召喚に成功すれば後は契約のキスをするだけ。さすがにキスするだけならルイズでも問題なく行えるはずだ。 しかしキュルケの妄言は止まらない。 「え、そう?ほんとに大丈夫かしら?もし、もしよ!あの変なやつに変な事されたら…」 「ミス・ツェルプストー、少し静かにできませんか?」 挙句先生に叱られる。いつものパターンだ。 「でも先生」 「静かにできませんか?」 「・・・すみません」 まったく、何故こんなに溺愛しているのだろう。 隣でまだそわそわしているキュルケを見ながらタバサは思う。 親同士は因縁浅からぬ関係であり、その上ルイズはキュルケのことを毛嫌いしている。 なのに彼女は自分の表現できる範囲で最大限の愛情を彼女に注いでいる。 どういう経緯があったのかは知らないが自分が出会ったころからそうだった。 このままでは穴に飛び込みかねない、そう思いタバサがもう一度声をかけようとした、まさにそのときだった。 「さっきからうっせェーんだよ!!」 ゴチイィィン さわやかな春の風が草むらをゆらした (…なんだろう、今の音は) 明らかに普通じゃない、たとえるのならば精錬された剣同士を競わせた音を三オクターヴほど低くしたような音だった。 さっきまで聞こえていた私語がなくなり一瞬の静寂が訪れる。 皆何が起こっているのか理解できていないのだろう。 タバサは辺りを見回してみた。完全に皆凍りついている。 コルベール先生はみんなの私語をやめさせようとしていたらしい、こちらを振り返って口をあけた状態でとまっている。ある意味滑稽。 隣からはカチカチと歯を鳴らす音が聞こえてくる。何が起こっているのかは見なくてもわかる。 そして・・・ 「イッテエェェェーーーー!!」タバサは聞いた、穴の中の謎の人物の声を。 「あ、あああ、あああああルイズーーーー!!」タバサは聞いた、隣で真っ青になっている友人の声を。 「誰かかまってくれても良いじゃないか・・・」タバサは聞いた、体を張ったのに誰からもいじられなかった少年の声を。 ―場面は再びくぼみの中へ (何なんだ今のは!?) 飛び起きたエルメェスの目の前にあったのは少女の顔。 まずいと思った時にはすでに十分な加速がついてしまっていた。その結果、正面衝突。 しかも頭と頭ではなく顔面と顔面、接触面積が大きい分こちらのほうがかなり痛い。 まったく状況がつかめない。 ここはどこなのか、自分は死んだのではないのか、目の前の少女は誰なのか、仲間はどうなったのか、何が自分に起こっているのか、エルメェスには今自身に起きている出来事のうちひとつも理解できていない。 最初に彼女が考えたのは第三者のスタンド攻撃という可能性。 しかしあの状況で瀕死の自分だけを別の場所に呼び出し、なおかつ落ちていたはずの腕をくっつけることを考える第三者が存在するのだろうか? 答えはNO。よってこの可能性は違うと判断。 次に彼女が考えたのは世界が一巡してしまったという可能性。しかしコレもおかしい。神父が自分を生き返らせることで起きるメリットなどないからだ。 ではどうして自分はこんなところに、とエルメェスが考えているといきなり彼女の左手を焼きごてがあてられたようなような痛みが襲った。 「ん?なあああぁぁぁぁ!!?」 エルメェスは確信した。この現象がスタンドを持つものの仕業であると。 「チクショオ!!『キッス』!!」 先ほど攻撃を受けた左手をかばいながら自身のスタンドを発現させる。 『キッス』、破壊力に優れ、物を二つに増やすことのできるシールを作り出す能力を持っている自分の精神の像(ヴィジョン)。 キッスで周囲を警戒したまま、目の前に横たわっている少女を調べる。 常識はずれな服装と髪の色をはずせば、12~13歳くらいの普通の少女。気絶している点から、彼女が本体ではないと考えられる。 (となると・・・どこかに本体が!?) 自分の目の前の少女が違うということは、マックイィーンのような遠距離でも効果を及ぼすスタンドかリキエルのようなほかの生物を操るスタンドといったところか。 (ほかにスタンドを使ってそうなヤツは・・・) 残念ながらエルメェスの意識もここで途切れてしまう。赤毛の美女の跳び蹴りによって。 「私のルイズに何してんのよおぉぉぉ!!!」 エルメェスが最後に見たのは真っ赤なパンティだった。 (予感的中。) タバサは心の中でそうつぶやいた。 謎の人物の声が聞こえるとすぐに、キュルケは素っ頓狂な声を上げた。 褐色の肌が青を通り越して白に近くなるほどである、相当驚いたのだろう。 キュルケはまず私の肩をつかみ何かわからない言語を叫びながらがくがくと私を揺さぶった。 次にコルベール先生のほうへ行って心配だ、心配だと叫ぶこと十三回。 彼女が召喚したサラマンダーを抱えてはおろし、抱えてはおろし、これを繰り返すこと七回。 コルベール先生に落ち着いてといわれ、できるわけが無いと叫ぶこと三回。 穴の中から新しい声が聞こえた。 「キッス!!」 声の主はやはりルイズではなくもう一人の召喚された人物のものだ。 二度目の声の後、ついにキュルケが壊れた。 「私のルイズに何してんのよぉぉぉ!!!」 叫ぶのが早いか、彼女は周りの生徒をなぎ倒し、先の予想どうりくぼみに飛び込み、くぼみの中心、ルイズの召喚した人物の顔にとび蹴りをかます。 召喚された人物は綺麗な弧を描いて吹き飛び、そのまま意識を失ったようだ。ピクリとも動かない。 「先生、ルイズが、ルイズが息をしていないのでじ、じじじじ人工呼吸をしししても良いですか!!?」 キュルケが鼻血をたらしながらコルベール先生に聞く。ここまで下心丸見えな質問も無いだろう。 「ミス・ヴァリエールは気を失っているだけのようですからその必要はありません。 それとミス・ツェルプストー、鼻血をぬぐいなさい。まがりなりにも淑女なのですから身だしなみには気をつけるように。」 「じゃあ、じゃあ、ほほほほほ保健室まで私が運んでもいいいいいですねッ!?」 キュルケは持っていた真っ白なハンカチで出ていた鼻血を拭き、ところどころ声を裏返らせながらこう提案した。 興奮状態の彼女にしては、いい提案である。 打ち所が悪かったらいけないし、こんなところで寝かしておくよりもベッドの上に寝かしておいたほうが回復も早いだろうから。 同じことを先生も考えたのだろう。すぐにその提案を受け入れた。 「それならば、私が運んで・・・」 「先生はあのゲスで野蛮なピチグソ野郎のルーンでも写し取って置いてください!!」 「・・・わかりました、ならばお願いします。それよりもミス・ツェルプストー、言葉遣いはどうにかなりませんか?」 小言になど耳をかさず、ルイズを背負い(このときにもう一度鼻血が出て、それをぬぐったために真っ白だったハンカチは真っ赤になった)そしてそのまま学園のほうへと飛んでいった。 飛んでいったキュルケを見送ったあと、コルベール先生は解散を告げ、ルイズの使い魔を自分の研究室へと運んでいく。 ほかの生徒たちは今までの出来事がまだ飲み込めていないらしく、唖然として、キュルケの飛び去っていったほうを見続けている。 「誰か僕のことも運ぼうって思わないのかい・・・?」 無論、血まみれの肉団子を運ぼうとする人はいない。 さわやかな春の風がもう一度草むらを吹き抜けた。 「・・・ここは?」 顔がひりひりしている、真っ赤なパンティの女のとび蹴りをもろに喰らったからだ。 先ほどとは違いおぼろげながら記憶はある。 しかし、蹴りを喰らったのはこんなにごちゃごちゃした部屋だっただろうか。 エルメェスはゆっくりと上体を起こす。怪我をしているのは顔だけのようだ。 「目覚められたか。」 「ッ!?」 不意にかけられた初老の男性を想像させる声。 「誰だッ!?」見回してみても誰もいない。 「そう警戒しないでくれ、もうすぐ終わるから。」 声の主は意外と、いや、かなり近くにいた。 四十過ぎくらいの毛根死滅頭皮を持つ男が地面に座り込み、あたしの左手を持って一生懸命何かを写し取っている。 左手といえばさっき攻撃を受けた場所だ。その左手を観察しているということは・・・ 「テメェが本体ってワケか!!」あたしは急いで『キッス』を発現させる。 しかしその男はというと 「本・・・体・・・?何のことかはわからないがとにかくルーンの書き写しは終わったよ。それにしても珍しいルーンだ。どこかで見たことがある気もするが・・・ふむ」 とあたしを無視して部屋の奥へと歩いていく。 「ヘイ!無視すんじゃねぇ!それ以上勝手な行動をとればあたしの『キッス』をお前にぶち込むぜ!!さぁ、答えろ。テメェが本体か?」とあたしが問えば、 「何故私が君にキスをされなければいけないかは知らないが、とりあえず質問があるのならば聞こう。」と男は答える。 どうも話がかみ合わない。しかもその男はキッスのほうには見向きもせず、あたしをずっと見つめている。 ためしにキッスを男の目の前まで迫らせたが何の反応も返ってこない。 顔面に拳を打ち込もうとしても男は瞬きひとつせずにこちらを見ているだけ。 もしかして、あたしのキッスが見えていないのだろうか? ならば本当に質問を聞こうとしているだけか。 しかし本体で無くとも、その関係者かもしれない。 あたしはキッスの拳をその男の目の前に構えたままとりあえず質問をしてみた。 「テメェ、あたしの左手に何をしてた?」 「なんてことはない、儀式で刻まれたルーンを書き取らせてもらっていたまでだ。何か問題があるのかね?」 儀式?ルーン?何の事だかさっぱりわからない。視線を左手に落とすと、そこには見慣れない文字が掘り込んであった。 「オイ、どういう冗談だ?コレ。」 「冗談じゃあない。君がミス・ヴァリエールの使い魔だということを表すルーンだ。」 「何だよ使い魔って、大体ここはどこだ!?あんたは誰だ!?あたしは海にいたんじゃあないのか?・・・そうだ、世界はどうなったんだ!? 徐倫は!?アナスイは!?承太郎さんは!?エンポリオは!?神父はどこに行ったんだ!?オイ、答えろ、毛根死滅禿頭親父!!」 言い終わってから気づいた、最後の言葉はNGワードだったのだと あたしの目の前で男の顔(頭)が真っ赤に染まっていく、コレはやばい。 「いや、よく見るとまだはげてねェな、ちょっとおでこが後退しちまってるだけだな・・・・・・スマン、あたしが言い過ぎた。」 男は仰々しく咳払いをして、ゆっくりと話し始めた。 「ここはトリステイン王国にあるトリステイン魔法学校、私はこの魔法学校で教師をしているコルベールというものだ。 君が召喚される前のことは一切わからない。何故なら平民召喚など前例が無いからだ。 そして使い魔については・・・保健室にミス・ヴァリエールがいるはずだから、彼女に聞いてくれ。それでは。」 コルベールと名乗った男はもう一度立ち去ろうとする。しかしあたしの疑問はまだ尽きない。 「ちょっと待ってくれ、そのミス・バリカン?っていうやつをあたしは知らないし、保健室の場所も知らねぇ。いったいどうしろっつーんだよ。」 「そうか、ならば少し待ってくれ。」 コルベールはさっきまであたしの左手の文字を写し取っていた紙を少し破り、そこに何かを書いてあたしに突きつけた。 「地図だ。コレがあれば迷わないだろう。」コルベールは書いた地図をあたしに突きつけ、また奥のほうへと歩いていく。 「オイ、まだ聞きたいことが・・・」 「後はその地図に従い、保健室へ行き、そこでミスヴァリエールに聞いてくれ。では。」 そのままコルベールは部屋の奥へと姿を消した。 聞きたいことはまだあったのに、コルベールは止まってはくれなかった。 (どこだって言ってた、あいつ・・・トリステイン?アメリカじゃあないのか?・・・マホー?ふざけてんのか?そもそも使い魔ってなんだよ・・・) 一人で考えていても埒が明かない。 とりあえずそのミス・なんとかいうやつから情報を聞き出さなければ。 そう思い、エルメェスは部屋を出て保健室へ行こうとする、が 「・・・おいおい、マジかよ・・・」 地図はぜんぜん知らない文字で書かれていた。 コルベールに聞こうにも彼はもう部屋の奥、出てきてはくれないだろう。 文字なしで理解できるのは地図そのものと目標地点であろう場所につけてある丸印だけ。 仕方なくエルメェスは絵だけを頼りに歩き始めた。 「・・・ここ、どこ?」 真っ白なベッドの中、軽い疲労と頭痛を感じながらルイズは目覚めた。 白を貴重とした部屋作り、鼻を突く独特の薬のにおい、どうやら保健室のようだ。 ルイズはまだうまく働いていない頭で考える。 確か自分は契約をしようとしていたはず。キスをしようとした瞬間に召喚した旅芸人が起きて、そして・・・ 「そうだ!!契約!!」 ルイズの意識は一気に覚醒した。 まだ契約は終了していない、早く契約しなければ二年生をもう一年続行ということになってしまう、留年だけは免れなくてはいけない。 体はまだうまくは動かせないが、がんばれば召喚の儀を行っていたあの草原まではいけるはずだ。 「早くしなきゃ・・・」 ルイズはベッドから下り、靴を履きなおす。 やはりまだふらふらとしている、が休んではいられない。 多少ふらつきながらもドアまでたどり着いた。幸い、担当の先生や付き添いの生徒は今席をはずしているらしい。 あと何百メイルも残っているのだろう、しかしレビテーションやフライの使えない自分はその距離をこの状態で歩いていかなくてはいけない。 (やっぱり最悪だわ・・・)と思いながら保健室のドアを開けると、ドアの外でルイズはとてもやわらかい何かにぶつかった。 (何これ?) とてもやわらかい、マシュマロのような弾力が行く手を阻んでいる。 何とか前へ進もうとルイズがもがいていがそのマシュマロは少しも動こうとはしない。 逆にそのマシュマロはルイズを奥へ進ませようとしないようにその体を羽交い絞めにする。 「何!?マシュマロのくせに邪魔する気!?あんまり私を怒らせないほうが良いわよ!」とルイズは言ったつもりだった。 しかしマシュマロに圧迫されていて実際には「ふがふが」と繰り返しているだけにしか聞こえない。 そうこうしていると急にルイズの体が浮き、そしてそのままルイズをベッドのほうへと運んでいく。 「ちょっと!逆よ!私は外に、契約をしに行かなきゃ行けないのよ!!!」 コレも実際には先ほどと同じような感じだ。 しかし今回はマシュマロからちゃんと返事が返ってきた。 「ダメよ、ルイズ。ちゃんと寝てなくちゃ。 いくら私と一緒に寝たいからって無理して私を探そうとなんてしなくていいの。 ほら、この通りちゃんと帰ってくるからね。さ、ベッドに戻りましょうね。 大丈夫よ、お望みどおりちゃんと一緒に寝てあげるからね。ルイズの甘えんぼさん。」 最高だと思った。 ようやく私の思いが伝わったのだと。 今日はいいことがあるような気がした。 朝起きて最初にしゃべったのがルイズという時点で今日はいいことがあると確信した。 ルイズを背負って保健室まで飛んでくるとき、最高だった。 そして扉を開けると、ルイズの方から私に抱きついてきた。 キュルケは初めて、心から神様に感謝した。 マシュマロの正体はキュルケだった。 キュルケが何故か恍惚とした表情で私をベッドの方へ抱きかかえて連れて行く。 コレは絵的にやばい。私の人生的にはもっとやばい。 「何やってんのよキュルケ!契約しなきゃいけないのよ、放して!」 「うふふ~・・・るいずぅ~、ねんねしましょ~ね~、大丈夫よ、やさしくするから。 力を抜いておけばすぐに気持ちよくなれるわ、ね?」 「ちょ、キモイってば、離れて!!いいから、もう寝なくて良いから! いや、脱がなくても良いから!!や、ダメ、脱、脱がすな!!誰か!誰か助けて!!」 抵抗むなしくルイズはもといたベッドまで戻されてしまう、しかも下着だけになったキュルケとともに。 もうだめだ、とあきらめかけたとき、偶然救いの手は差し伸べられた。 「なんだ!?ふざけてんのか!?」 旅芸人のような格好をした人物の登場により、ルイズの貞操はなんとかまもられた。 TO BE CONTINUED・・・
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ズドン、と何度目かわからない爆発音に、砂埃が巻き起こる。 日は既に落ち、二つの月は穏やかな光で草原を照らしている。 「もうそろそろ休んだらどうかね? ミス・ヴァリエール。使い魔召喚は明日にでもやり直したらいい」 「まだですっ、まだやれます! お願いしますミスタ・コルベール、納得がいくまでやらせてください!」 そう言って、月に照らされた人影はその手に持った杖を振り下ろした。 そして再度。何もない空間が爆発、轟音と爆煙を巻き上げる。 「また失敗……」 咳き込む少女、目尻に涙を浮かべながら、また杖を振り上げて呪文を唱える。 そして振り下ろす。 すると今度は爆発しなかった。 数え切れないほど呪文を唱え、数え切れないほど杖を振り上げ、杖を振り下ろし。 ただ一つだけ、使い魔を呼び出すことだけを考えて、一心不乱に。 そしていま、やっと『失敗』しなかったのだ。 視界を邪魔する土煙がうっとおしい、早く、早く己の使い魔の姿を見たかった。 どんな姿をしているのだろうか、美しいのだろうか、強いのだろうか、賢いのだろうか。 コレで、コレでやっと、誰にもゼロなんて言わせない! 煙を散らすと、そこには………… 男が一人、額に手を当て、眉を不愉快そうに顰めていた。 「こここ、コレが。つつつつt強くて。カカカカか格好良くて。うううううつうつ美しい使い魔………?」 変なギザギザのバンダナを額に巻いていて、服は見たことのない物を来ている。 明らかに平民だ。 ルイズはとっさにコルベールにアイコンタクト。 「平民です」 「構わん、行け」 「平民の使い魔なんて聞いたことありません」 「一度で良いことを二度言うことは無駄です」 とりつく島もない、ルイズは諦めてその男に近づこうと一歩歩み寄った瞬間。 「全員動くな!!!!!」 男が声を張り上げた。 突然の声にルイズは歩みを止め。また周囲で笑っていた他の生徒もしいんと黙りこくってしまう。 男は両膝を付き、両手も付いて何かを探しているかのようにきょろきょろと周囲を見回している。 「くそッ……せめて範囲が広がってくれれば見つかりやすいモノを………どこだ、どこにいる……」 彼のその動作は、まるで地面に落ちたコンタクトを探すかのように、まるで地面に『壊してはならないモノ』が落ちているかのようにゆっくりと両腕で草を払っていた。 「………ッ、ちょっといきなりなによ!平民のクセに貴族に「黙れ! 動くな! 聞こえない!」命rひっ……」 固まっていたルイズが男に詰め寄ろうとしたが、瞬間男は怒気を露わに叫んだ。 さながらその男の顔は鬼気迫っていて。たとえ平民だとしてもそれに抗うことを躊躇ってしまうほどだった。 「ここが何処か。なぜぼくがここに来たのかは今はどうでも良い。それよりまずぼくには捜し物があるんだ。いいから黙っていてくれ、絶対に動くんじゃないぞ」 それだけ言って、男は顔をまた地面に向けた。そして捜し物を再開する。 「…………なっ、なっ、何よその言いぐさはぁーーーーーーー!」 「喧しい!!黙れと言ったはずだぞ! 今は君に付き合っている暇はないんだ!」 ルイズの怒りの言葉をさらなる怒りで男は吹き飛ばす。 そして次の瞬間、ルイズの体がどしゃりと崩れ落ちた。 突然倒れたルイズに驚いたのは教師コルベールだ。 「き、君!一体ミス・ヴァリエールに何をしたんだ!」 歩み寄ろうとするコルベールに、男は躊躇せず『ソレ』をぶち込んだ。 瞬間、コルベールは脚を踏み出した状態で固まってしまい、前に進むことも引くことも出来なかった。 「な………う、動けない……そんな……杖も持たずに……まさか、先住魔法………?」 「どこだ、どこだ、どこにいる。せめて範囲が広がれば、手の先にでも触りさえすれば………っ」 かさり、と草が動く音が聞こえればそこに聴覚を集中させる。 しかし音がするのは一度だけ、ソレでは確証には至らない。 動き回るのはそんなに早くない。ならば絶対近くにいるはずなのに! 「ぁ……きゃ……あは……だー」 「!!!?」 (聞こえた! どこだ、確実に聞こえたぞ。あそこは、娘が倒れている方向、もうあそこまで言ったのか……ん?) 草原に倒れているルイズの方向から声は聞こえた。 「んん?」 倒れているルイズのスカートがめくれ、その下着が露わになっている。 しかし、男が見ているのはソレではなく、不自然にヒラヒラと動くスカートそのものだった。 「いた………よかった………見つかったぞ」 そして男はゆっくりとルイズのスカートに手を伸ばした。 いったい何が起こったのかは、私にはわからなかった。 あの子が、あの『ゼロのルイズ』が、使い魔を召喚できたことには、『おめでとう』と言ってあげても良いと思っている。 それがたとえ平民であったとしても、今まで一度たりとて魔法を成功させていなかったあの子にとっては、初めての快挙なはずだから。 ところが、どういう事だろうか。 その使い魔は突然『動くな』と言った。主であるはずのあの子、ルイズが近寄ろうとするのを大声で制した。 なおもルイズが近寄ろうとすると激情を露わにして怒鳴った、次の瞬間ルイズはぺたりと崩れ落ちた。 あの平民がいったい何をやったのか、それは全くわからなかった。 ただ、右手を上げて空中で素早く動かしていたみたいだったけれども、それ以外は、何も。 横たわるルイズを尻目に、その男は両手を地面について何かを探しているようだ。いったい何を? 「………あ……ー」 ん? 今何か聞こえた………ような気が……。気のせい……かしら、こんなところで赤ん坊の声なんて。 コルベール先生も動こうとしない、それならば先生は『危険はない』と判断したのだろう。 しかしそんな判断は、その使い魔がルイズのスカートに伸びた瞬間、跡形もなく消えた。 「ファイアボールっ!」 杖を抜いて即座に呪文を唱え、小さな火の玉を飛ばす。 ルイズと平民の距離が近すぎるため、当たらないよう放つ。 その呪文を、平民は頭を下げて避けた。 当たらないように十分高さを取って頭上を通り過ぎるようにしたのが裏目に出たか。 男が、私を睨み付ける。 「今のは……君の『スタンド』か……?」 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……… ぎらりと男の瞳が私を睨み付ける、その視線はまるで敵を目前にした戦士のような瞳だ……っ。 思わずぞくりと背中が震えるのがわかる。 『スタンド』の意味はわからなかったが、彼はこちらを警戒しているのがわかった、右腕がゆっくりと持ち上げられる。 「何度も言うが。動かないでくれたら何もしない。彼女はそれを無視して動いたから少し眠ってもらっているだけだ、危害は加えない。約束する」 男の目がじっと私を見つめてくる。 闇のように真っ黒な瞳、あぁ、吸い込まれそうな黒い瞳、私はその中の『覚悟』を見た。 彼には一つの目的がある、それを果たすため、それを邪魔するモノに容赦はしない、と。 ほんの十数秒の邂逅、私が一歩引くと。彼は視線を落として、その手をルイズのスカートへ。 ぽん、と置いてもう片方の手を伸ばす。 そして、透明な水をすくうように型作り、見えない何かを持ち上げているように見えた。 「よかった………もしこの赤ん坊に何かあったらジョースターさんに顔向けできないところだった……」 何かをその腕の中にしっかりと納めるような動作、相変わらずそこに何かあるようには見えなかったけれど。 ただ、彼のその衣服が、不自然な形に歪んでいるように見えた。 「あぶぶ。きゃ、あは♪あばば」 赤ん坊の声が聞こえる、どこからだろう。 赤ん坊の声が聞こえた途端、男から発せられる威圧感はなくなった。 それと同時に、横たわっていたルイズが目を覚まして起きあがった。 「もう良いよ。こちらの用は済んだ。では君がぼくらをここに呼び出した理由を聞かせてもらおうか」 ぞんざいに言い放った男の言葉に、ルイズの怒りが爆発する。 「コッこここここここのっ、へへへ平民の。くっ、くくせに、ご、ごごごご主人様になんて口の利き方を………!」 「ご主人様? 心外だな。勝手にこちらに飛ばしたのは君の……君達の、か? 敵意はないようだがその理由を聞かせてもらおうか」 「理由………そう、そうよ! あんたは私の使い魔なんだから!」 「使い魔? おいおいやめてくれよ。魔法使いごっこをするために呼び出したってのかい?使い魔が欲しいんならその辺にいる蛙とか猫でも捕まえてきたらいいじゃないか」 「何言ってるのよ! サモン・サーヴァントで召喚したものを使い魔にするってのが常識なのよ! そこらの生き物捕まえたって使い魔に出来るわけ無いわ!」 要領を得ないルイズの言葉に嫌気が差した男は、やれやれと溜息をついた。 「………埒があかないな」 『ヘブンズ・ドアァーーーッ』 本にして記憶を読む。その方が嘘はないし曖昧さも回避できるからだ。 「ん? 『魔法』だと? そんなばかな……しかし『スタンド』のことは書かれていない……それに……」 記憶のあちらこちらに書かれている事柄に、男は目を丸くする。 魔法。サモン・サーヴァント。コントラクト・サーヴァント。魔法成功率ゼロ。トリステイン。魔法学院。ゼロのルイズ。精霊。四大系統。虚無。エルフ。胸もゼロ。先住魔法。 ヘブンズ・ドアーに隠し事は出来ない。ただ、本人の勘違いや記憶違いもそのまま読んでしまうのが欠点ではあるが。 (スタンド攻撃……では『無い』か。どうやらサモン・サーヴァントとやらであの鏡みたいなものを出現させるのか。それに魔法。ハルケギニアという地名も聞いたこと無いし………) 男は、自分の体が歓喜に震えるのを感じていた。 (素晴らしい、素晴らしいぞこれは。まさか『異世界』なんてモノを目の当たりに出来るとは思ってもいなかった!) しかし、ネックなモノが男が今胸に抱いているモノ。 どうにかこの『赤ん坊』だけ先に返せないモノか、ルイズの記憶を更に読む。 しかし、呼び出すことは出来ても、送り返すことが出来ないと言うことを確認することだけしかできなかった。 家族構成や、始めて初潮のあった日、寝小便をいつまでしていたか、なんて本人ですら覚えていないようなことすらも読み取れるその力でさえも。 その本人が知らないことは、どうあっても読み取ることは出来ないのだ。 (なんにせよ。とりあえず従っておくのが得策か? こちらのことなど何一つわからないのだからな。赤ん坊を連れてよそへ行くにしても近くの町までこれほど離れてるのでは無理がある……) 意外にあっけなく納得して、男は本になったルイズの空白部分に一つ小さく書き加えた。
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特に何も無い毎日が過ぎていった。大盗賊が襲撃してきたりすることはなく、王女が訪問してきたりすることもなく、どこぞに冒険に出かけるようなこともない。極めて平和な日々が続いていた。それに不満があるわけではない。 しかし、そこに大きな満足もない。いや、ほんの数ヶ月前までなら彼はそれに満足していたのだ。授業を適当に聞き流し、昼休みや放課後には女子にちょっかいを出してみる。本命にばれやしないかというスリルにゾクゾクしながらなんてことのない日々を送っていた。 だが、もう以前の彼ではない。世界はそんな生ぬるいものではなく、いつか襲い掛かってくることを知っている。それなのにどうして学院という籠の中にいられるというのだ。時間はあるようで、ない。戦わなければいけないときは、前兆なくやってくる。そのときのために強くなりたい。 敗北を知り、彼はそう思うようになった。 「決闘だ!」 「あんたいきなり何言ってんの?」 キュルケが馬鹿にするような声で言ってやった。ルイズも呆れた目でギーシュを見た。 「だから決闘を申し込むんだよ。受けてくれるかい?」 「誰によ」 この場にいるのは先にあげた二人とシエスタ、そしてンドゥールである。この四人で何をしていたかというと、またあいかわらず魔法の練習だ。爆発の余波を受けていた おかげで真っ黒になったルイズはシエスタから濡れ布巾を受け取り顔をぬぐう。 「まさかンドゥールとやるの?」 「その通り!」 「やってあげてンドゥール」 ルイズがそう言うと、ンドゥールは懐から手袋を取り出し、投げた。それは丸めてあったので空気抵抗が弱く、ひゅるひゅるとギーシュの顔に向かっていった。そして当たる直前、その手袋に向かって水が突き上げた。 ギーシュは背筋が寒くなった。その手袋はなんかやばい。彼はとっさに後ろに下がった。すると、彼の少し前に落ちるはずの手袋が突如動き出して喉元に掴みかかってきた。 「ぐえええ!」 水が詰まった手袋に首を絞められた。ギーシュは暴れるも水の力は強く、手袋は離れない。声が出ないので魔法も使えない。 つまり、どうしようもないということである。 決着。 「というかだね、始めの合図も何もなしに仕掛けるのは反則だと思うんだよ。だからあれは僕の」 「負けよ」 「負けね」 「負けです」 「うん。そうだね」 アハハと乾いた笑いをしてギーシュは水を飲んだ。いまはちょっと小休憩、ルイズも精神力はともかく体力が限界に近かったので食事を摂っている。 疲労があるので食べやすい一口サイズのサンドイッチだ。 「それで、いきなり決闘なんてどうしたの?」 「いやだね、その、アルビオンではフーケに負けてしまったからね。今度は勝てるように鍛えようと思ったんだ。それで本とかを読んだりしてて、次は実戦だと、ね」 「相手が悪いわ。ダーリンが手加減してくれたのもわかるでしょ? もうちょっと実力が近い相手と戦いなさいな」 容赦ない言葉。しかし、それは事実。ギーシュは涙を堪えた。 「しかしだね、他のものと決闘しても普通の魔法ぐらいしかやってこないじゃないか。 もっとこう、こっちが驚くようなことをする相手じゃないと」 「なんで?」 「ガチンコでやりあっても仕方ないじゃないか。裏を掻くようなことをしないとフーケのように実力がはるか上の相手には勝てないだろ?」 「なるほどね」 彼の言うことももっともである。キュルケも実戦の経験、といってもちょっとした喧嘩のようなものであるが、単なる力押しで勝ったのは相手が弱く、馬鹿なときぐらいだ。時には頭を使わなければならないときもある。ギーシュはフーケとの戦いで魔法以外を使うことを知ったのだろう。 「それじゃあ、あんたこの子とやってみなさいな」 キュルケが言ったこの子とは、シエスタ、ではもちろんなくルイズのことであった。 「ちょ、正気かい? 君、ルイズは、その」 「成功率ゼロよ。でもねギーシュ、やりようによっては彼女はあんたに勝つかもしれないわよ」 「なんか腹立つわね。その通りだけどゼロゼロ言わないでよ」 「ルイズ、君はやる気なのかい?」 「当たり前よ。舐めてんじゃないわ。シエスタ、離れてちょうだい」 ルイズはまだ乾いていない髪をゴムで縛り、上着を脱いだ。煤で真っ黒になるため安いマントを羽織っていたのだ。 「さあ、始めましょう。負けは杖を落としたらでいいわよね」 「ああ、まあ、いいよ。けど本当にやるのかい?」 「くどい! さっさと構えなさい」 ギーシュはルイズの剣幕に押され、杖を懐から抜いた。だが、彼は心の中でこの決闘にまったく乗り気ではなかった。それは相手が女性だということもあるが、明らかに力が弱いということが大きな原因だった。大体強くなりたいために決闘を申し込んだのだ。弱いものイジメをしたいためではない。 しかし、彼は気づいていなかった。これとまったく同じ状況に以前遭遇していたことに。 そのとき完膚なき敗北を喫したというのに。 「ワルキューレ!」 まず手始めとして、いつかのように自慢のゴーレムを生み出した。 だが本気ではない。 たったの一体だけだ。 爆発が起こった。それはワルキューレを軽々と吹っ飛ばした。 失敗には違いない。しかし、威力は十二分にある。ギーシュはようやく本気で掛からなければいけないと、理解した。 「すまないルイズ。僕は君を舐めていたよ」 「不愉快ね」 「ああ。これからは全力だ」 詠唱し、杖を振った。すると今度は四体のゴーレムが生まれでた。それぞれ手には短めの棒が握られている。 「行け!」 先ほど倒されたものも起き上がり、合わせて五体ものゴーレムがルイズへと襲い掛かっていった。シエスタが悲鳴を上げるが、ンドゥールもキュルケもルイズ本人も動じることはなかった。 爆発が起きる。ゴーレムが吹っ飛んだ。一体ずつとはいえ詠唱は速く、ゴーレムは近づくことができない。正面からは。 「きゃあ!」 ルイズが羽交い絞めにされた。後ろに振り返ると、ギーシュのゴーレムがそれをしていた。前方に意識を集中させ、背後から忍ばせていたのだ。 「降参したまえ」 「い、や、よ」 ギーシュに応じず、彼女は魔法を唱えた。今度の爆発は超小規模で、ルイズを押さえているワルキューレの肩で起こった。それをさらにもう一度することで、拘束は簡単に解かれた。おまけに止めとばかりに 頭と胴体を爆発で抉る。 「さあ、いくわよ」 ルイズは走り出した。その進行を止めようとギーシュはまだ動けるワルキューレを向かわせた。だが、それすらも爆発で吹っ飛ばされる。これは彼女なりの成長である。 最近の練習のおかげで爆発の規模を調整することと対象を選択することがかなり細かくできるようになったのだ。 「食らいなさい!」 ルイズが杖を振るう。ギーシュは腕で守りを固めたが、無意味。爆発は彼を吹き飛ばした。 「ぐあっ!」 地面に転がる。全身が痛みに呻いていた。馬鹿と鋏は使いようとはよく言ったものだなあ、と、ギーシュは思いながら身体を起こす。と、彼の目に走り寄ってくるルイズが見えた。 このままでは敗退、それは嫌である。三連敗など情けない。ギーシュはどうすべきか頭を悩ませ、逆転の方法を思いついた。 「降参なさい!」 彼の目の前にやってきたルイズがそう命令した。彼女を見上げながら、ギーシュは言ってやった。 「い、や、だ、ね」 「――ッア、」 ルイズの腹を青銅の棒が突いていた。それはギーシュの手に握られている。 彼は土の中に錬金でそれを作り上げていたのだ。 「僕の、勝ちだ!」 そして彼はそのままルイズの杖を弾き飛ばした。くるくると宙を舞い、あとは地面に落ちるだけ。完全な勝利、だと彼は思った。しかしルイズは、勝利を逃すのが我慢ならなかったのか頭が興奮していたのか、おもむろにギーシュをぶん殴った! 「オラァ!」 「へぶ!」 さすがにその反撃は想定できなかった。ギーシュはまともに顎に食らい、杖を放して地面にぶっ倒れた。と、ルイズの杖も地面に落ちた。 「勝ったわ! ちい姉さま、私やりました!」 「いい、いや、ちょっと待ちたまえ! 杖を放したのは明らかに君が先だったじゃないか! これは僕の勝利だ!」 「何言ってるの。勝負は先に杖を地面に落としたほうが負けって決めてたじゃないの」 「そうは言ってもだね、君が殴りかかってきたときにはもう勝負がついてたんだ。 潔く、敗北を認めたまえ」 「潔く? あんたが負けたのよ。あ、ん、た、が!」 「いいや、君だ。勝ったのは僕だ。君が負、け、た、の、だ!」 「違うわ。勝ったのは私。わ、た、し、よ!」 「ぼくだ!」 「わたしよ!」 口論は続くよどこまでも、というわけにはいかないのでキュルケは軽い炎を浴びせてやった。 「落ち着いたかしら。二人とも」 ルイズとギーシュはこっくりとうなずいた。シエスタが急ぎ濡らした布巾を渡す。 結構見た目は悲惨なことになっているがダメージは軽いものであった。 「で、ダーリン、この勝負はどうだった?」 「引き分けだろう」 『そんな馬鹿な!』 「私もそう思うわ。納得しなさい。大体勝ち負けを争うのは二の次でしょ。違う?」 ルイズは口を尖らせ、ギーシュはうつむいた。その通りなのだ。こんな小さなことで争っているのではない。なんとか胸のむかつきを二人は抑えた。 「にしても、二人ともよくやったわよ。強い強い」 「私はあんなもんじゃないもの。手加減してやったんだもん」 「それを言うなら僕だって。わざわざ羽交い絞めしてやったんだぞ。本当ならあの時点で勝負はついていたんだ」 「あら、それを言ったら最初の爆発であんたをぶっ飛ばしてもよかったのよ?」 「なんだと?」 「なによ」 「また口論?」 『イイエソンナコトハアリマセン』 二人は息がそろっていた。 「でもやっぱり修行するにしても全力を出せないんじゃあちょっと問題ありよね」 「そうだな。互いの命を取らないという約束があれば腕は鈍らなくても上達するには 時間が掛かる。アルビオンでのような戦いができればそれに越したことはないのだが」 ンドゥールの言葉にルイズとキュルケ、ギーシュがないないと手を振った。あんなものが何度もあれば修行云々どころの話ではなくなってしまう。 「でも、それに似たようなことならできるわ。ちょっと待ってて」 キュルケはそう言ってその場から離れていった。そして数分後、彼女はどっさりと紙束を持ってきた。 「なんなのそれ」 「これはね、宝の地図よ」 「……また怪しいものを持ってきたね君は」 ギーシュの言葉は全員の心を代弁していた。そんな宝の地図なんていうものは九割九分偽物と決まっているのだ。森林で一枚の葉っぱを探し出すようなものである。 「そんなもの、大抵亜人の巣の奥に宝石が眠ってるとかそんなのだろ?」 「そうよ。だからいいんじゃない」 ギーシュはキュルケの真意がわからなかった。しかし、ンドゥールは理解した。 「その亜人とやらを退治するのが本当の狙いということか」 「正解。さすがダーリン、話が早いわ。チューしましょいだ!」 「寝言は寝て言いなさい」 キュルケの額をルイズが杖で突いたのだった。先は尖っているので痛みはある。キュルケは涙目になりながらも改めて説明した。 「宝探しのついでに亜人と戦って経験を積みましょうってことよ」 「ああ、なるほどね。それなら決闘よりは有効だろう。よし、行こうじゃないか。 亜人退治に」 話はとんとん拍子に進み、シエスタもついて行くと言い出しどうせだからタバサも呼ぼうとなり、大所帯で冒険に出かけることになった。ルイズも最近は訓練と学業だけの生活だったので気晴らしができることが嬉しく、ちょっとわくわくしながら荷を纏めていた。だが、その最中に学院長に呼び出されてしまう。 「何の御用でしょうか?」 学院長室にルイズが入る。中にはオスマンがおり、口にくわえていたパイプを取って声をかけた。 「よく来たの。先日はご苦労じゃった。疲れは癒せたか?」 「は、はい。もう大丈夫です。それで、」 「ああ、呼び出したのは他でもない。アンリエッタ王女に関してのことじゃ。このたび公式に発表されることじゃが来月、王女とゲルマニア皇帝の結婚式が執り行われる ことになった」 喜ばしいこと、とは一概に思えない。ルイズはあの勇敢なウェールズ皇太子を知っている。姫君は彼を愛していたのだ。その人物が散った矢先に好きでもない男と結婚など。ルイズの脳裏に愛しいアンリエッタが思い浮かんだ。 少しも笑ってない。苦しくなった。先ほどまでの心の躍動は消えていた。 オスマンは顔を曇らせているルイズを見やり、思い出したように一冊の本を差し出した。 「これは?」 「始祖の祈祷書じゃ」 それは王室に伝わる伝説の書物。なぜそんなものを、とルイズが尋ねるとオスマンは説明してくれた。 なんでも王族の結婚式では貴族から選ばれし巫女が『始祖の祈祷書』を手に、式の詔を詠みあげる習わしがあるという。その巫女に、ルイズは姫から指名されたのだ。 「その、詔は」 「おぬしが考えるんじゃ」 「わ、私がですか!?」 「そうじゃ。ま、草案は王宮の連中が考えるじゃろうがの。だが名誉なことじゃぞ。 王女自らが示してくださったのじゃ。普通の貴族では式に立ち会うこともできんのにの」 ルイズはアンリエッタのことを思うと胸が締め付けられた。彼女のためなら嫌だとはいえなかった。 「わかりました。謹んで拝命いたします」 「そういうわけで、いけなくなったわ」 ルイズはいざ出発しようとしているキュルケたちに向かって言った。事情を説明すると、彼女らもさすがにそれじゃあ仕方ないかと納得してくれた。肝心の巫女が行方不明になっていては結婚式の段取りに問題が生じる。 学院でじっとしていなくてはいけないのだ。 「それじゃあ、その、ンドゥールさんはどうされるのですか?」 「そうねえ。私としては来てもらいたいんだけど」 「だ、そうだ。ルイズ、俺はどうしたらいい?」 いきなり問われて、ルイズは困った。別にンドゥールがずっとそばにいる必要はない。十分働いてくれたのでここいらで羽を伸ばさせてあげたほういいかもしれないし、亜人と戦いにいくのに彼女らだけではいささか不安。トライアングルが二人にドットが一人とはいえ、魔力が切れてしまえば全員ただの人。 そうなったときにンドゥールがいれば守れるかもしれない。 だから、行かせるべきかもしれない。 「ンドゥール、あなたはどうしたいの?」 「そうだな。どちらでもいいが、強いて選ぶとするなら外へいくほうがいい。いまだに俺はここのことをよく知らないのでな」 その言葉にルイズの胸にぽっかりと穴が開いた。 「そう。なら、行ってきて。ちゃんとキュルケたちを守りなさいよ」 「わかった」 ルイズの心を切ないなにかが走りいく。 あれ、どうしたのかしら、これは。 翌日、ルイズは朝日とともに起き上がり、服を着替えて寝癖を直す。そうしてベッドに座り、チコチコと時計の音を聴いて時間を待つ。だが、いつになっても使い魔は入ってこない。 これじゃあ朝食に遅れてしまう、と思ったときに気づいた。 「そっか、いないんだ」 ルイズは小さく呟き、マントを羽織って部屋を出た。始祖の祈祷書をもつことも忘れない。肌身離さず持ち歩かなければならないのだ。とぼとぼと床を見ながら食堂まで歩いていき、時折彼女はハッとなって後ろに振り向いた。けれどもそこに背の高い男はいない。そのたびに違和感が生まれる。 歯車が噛みあっていないような。 食堂で祈りを捧げ、朝食を取り、今度は教室に歩いていくのだがそのときにも何度も後ろを振り向いた。だがいない。当たり前のはずなのに、なんだか気分が悪い。あの音が聞こえないからかもしれない。 ンドゥールの規則正しい、杖の音が。 教室でいつもの席に座り、授業を受けてもまともに集中することができない。 そばにンドゥールがいない、それだけでなにかがおかしい。 「ミス・ヴァリエール、聞いていますか」 「あ、はい。大丈夫です」 「本当ですか? なら――」 そのときの教師はルイズに問題を出した。それを彼女はすらすらと答えた。 授業は聞いていなくともとっくに予習していたのだ。 その日の授業が終わり、風呂にも入ってルイズは自室に戻った。ばったりとベッドに倒れこみ、ごろごろと回ってから起き上がる。 「ンドゥール」 名前を呼んでも返事はない。この部屋にいるのは自分だけだ。いつも藁束の上で耳を澄ましている男はいない。元々彼とは話すこともほとんどなかった。静けさも何もかわらない。ただ、自分の部屋が異様に広く見えていた。 あの男がいない、それだけ。 それだけであるが、ルイズの心には途方もない寂しさが広がっていた。まるで世界でたった一人しかいないような気分であった。いや、それは真実でもあった。 彼女はゼロのルイズと蔑まれ、いつしか殻に閉じこもるようになっていた。それが、ンドゥールの出現で変わった。 彼女の生活に入り込んできたあの男は静かに殻を壊し、外の世界へ連れ出してくれた。そのぶんフーケやワルドといった危険が迫ったが、彼が守ってくれた。 そして、気づかぬうちに孤独からも救ってくれていたのだ。そのことに気づくと、ルイズはベッドに潜り込み、毛布に包まった。そして名前を呼んだ。 ンドゥール、ンドゥール、と。
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ご招待 開会式 第一種目 昼食 昼食兼第二種目 第三種目 第四種目 閉会式
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キュルケは唇をぐいぐい押し付けてくる。唇を離そうとするが力強く、なおかつ巧みに唇を押し付けてくるので 離れない。力ずくで引き離すしかないようだ。 そう考え実行しようとすると、ドアのほうから凄い音がした。 ドアのほうを見るとネグリジェ姿のルイズがいた。キュルケは気づいているだろうがキスをやめようとはしない。 ルイズはわざわざ蝋燭を1本1本蹴り飛ばしながら私たちのほうに近づく。 「キュルケ!」 ルイズが怒鳴りつけてくる。 キュルケはその声を聞くとようやく私とキスをやめる。今だけはルイズに感謝しよう。 ルイズがキュルケを怒鳴りつけるが、キュルケはそれを軽くいなす。 早くここから出よう。 「来なさい。ヨシカゲ」 ルイズが私を睨んでくる。今行こうとしてたところだ。 腰を上げようとする。しかしキュルケが私の腕を掴み引き寄せる。 「ねえルイズ。彼は確かにあなたの使い魔かもしれないけど、意思だってあるのよ。そこを尊重してあげないと」 確かにそうだ。だから私の腕を離してくれないか? そう思いながら腕を引き離し、ドアのほうへ歩いていく。 「あら。お戻りになるの?」 キュルケが悲しそうに言ってくるが無視し部屋を出てルイズの部屋に戻った。 「まるでサカリのついた野良犬じゃないのよ~~~~~~ッ!」 部屋に帰って早々ルイズに怒鳴られる。ここまで怒鳴られたのは数日ぶりだな。うれしくは無いが…… しかし野良犬とはね。今日まで嫌々だが言われたことをこなして来てこの言い草か。 「そこにはいつくばりなさい。わたし、間違ってたわ。あんたを一応、人間扱いしてたみたいね。 ツェルプストーの女に尻尾を振るなんてぇーーーーーーーーーー!犬ーーーーーーーーーーーーー!」 わけがわからない。なぜこんなに怒っているんだ。どうやらキュルケが関係あるようだが。 ルイズは机の引き出しから何か取り出してきた。鞭だ。立派な革製で叩かれたら痛そうだな。 「ののの、野良犬なら、野良犬らしく扱わなくちゃね 。いいい、今まで甘かったわ。乗馬用の鞭だから、あんたにゃ上等ね。 あんたは、野良犬だもんねッ!」 ……今回ばかりは腹に据えかねるな。腰に吊ってあるデルフリンガーを抜く。 「久しぶりに抜いてくれたな。相棒」 デルフリンガーが早速声を掛けて来る。相棒って私のことか?初めて聞くぞ。 「な、何よ?」 さすがに剣を抜かれたのには唖然としたのだろう。今まで自分の言う事に従ってきた人間が反逆したのだから当然か。 剣を抜いたまま1歩1歩近づいていく。ルイズはさすがに私が本気だということがわかったのだろう。顔を青くして後ろに後ずさる。 しかし覚悟を決めたのだろう。鞭を振り上げ私を叩こうとする。 しかしデルフリンガーで鞭を切る。案外切れるじゃないか、錆びてるくせに。 「ななな、何よ!何か文句であ……」 何か言おうとしていたみたいだがそれより早くルイズに近づき腕を首に当て壁に押し付ける。 「カハァッ!」 ルイズをそのまま締め上げる。ルイズが首を閉める腕を外そうとするが外れない。所詮は少女の力だ。外れるわけが無い。 ルイズの顔を覗き込む。ルイズの瞳には涙が浮かんでいる。 「使い魔の調教に失敗したな」 顔を覗き込みながら淡々と告げ、さらに締め上げる。 暫らくして腕を退かすとルイズはそのまま床に倒れこんだ。 14へ
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サクラガソリネラ 産駒一覧 ステージ 馬名 競争成績 36S サクラコヒエンド - 37S マリアカラス -